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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第47章
2ヶ月ぶりに目にした、愛しい匠海の姿。
その切れ長の瞳が、ヴィヴィを射抜くようにまっすぐと見つめている。
「………………っ」
ヴィヴィの全身がぞくりと震え上がる。
その眼だ。
その眼に、きっと私は――、
「そうやってそこにいるお前は、まるで見えないよ……」
ヴィヴィの思考を強引に断ち切る、匠海の固い声。
言葉を区切った匠海が、ふっと口の端だけで嗤う。
「まさか、実兄の上で卑猥に腰を振っていた『売女』と同じ女、にはな――」
「………………」
静かなリンクに、空調の鈍い重低音だけが下りていた。
筋肉という筋肉が弛緩し、だらりと重力に従って腕が垂れる。
引き結んでいた唇が、薄く開いて止まる。
ただその場に立っていることだけで、精いっぱいだった。
けれど外したいのに外せない視線だけは、匠海へと注がれていた。
「何故、俺がお前を殺さなかったか、分かるか、ヴィクトリア?」
ヴィヴィの薄い唇がひくりと震える。
「俺がお前に復讐するため――、
ただそれだけの為に、お前は生かされているんだ」
その灰色の瞳に宿っていたのは、紛れもない――憎悪。
己の醜い妄執に巻き込み、穢し、貶めた、妹である自分への憎しみの炎。
(………………)
「分かったら、さっさと屋敷に戻れ。無駄なことをして、俺に手間を掛けさせるな」
匠海はそれだけ言うと、立ち竦んだままのヴィヴィに背を向けてリンクから出て行った。
匠海の姿が自動扉の外へと消えた途端、ヴィヴィの身体がへたりと氷の上に落ちる。
「………………」
何も、考えられなかった。
匠海が真正面からぶつけてきた、怒りや憎しみにあてられたかのように、頭も心も麻痺して機能しなかった。
「復……讐……」
唇だけが、匠海の言葉をなぞる。
(………………)
緩慢に開かれた灰色の瞳が、匠海が先ほどまで立っていた場所を見つめている。
脱力した身体はもう座っていることさえ苦痛で、やがてぐったりと氷の上に横たわった。
氷に触れている右半身が、冷たさを訴え、指先から徐々に感覚が無くなってくる。
(このまま、ここで寝ていたら……、
死ねる、だろうか……)