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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第47章
ごろりと仰向けになり、高い天井を見上げる。
いくつもの大きな照明が吊り下げられた、無機質な天井。
こうやって寝そべってリンクの天井を見上げたのは、小学校以来だ。
確かあの時は、スケ連の野辺山合宿に行くのを嫌がって、氷の上に寝転んで駄々を捏ねたのだ。
『お兄ちゃんがいない所になんて、ヴィヴィ、行かないもんっ!!』
なんて我が儘。
なんて幼稚。
駄々を捏ね、泣き叫べば、誰かが抱き起して慰め、願いを叶えてくれると思っていた。
けれど今は、そんな昔の自分が羨ましくて仕方がない。
(………………)
遠い昔を懐かしむように遠くを見ていたヴィヴィの瞳が、ゆっくりと瞼を閉じる。
自分が兄に対して出来る贖罪。
それは、兄の『復讐』をこの身に受け止めながら、生きること。
ああ、自分が生きる意味が、一つ追加された。
ふっとヴィヴィの唇に笑みが浮かぶ。
可笑しかった。
自分を殺したいほど憎んでいる匠海が、自分に生きる意味を与えてくれた。
「ふ、ふ……、ふ……っ」
白い喉から、乾いた嗤いが零れ落ちる。
驚くほど涙は出なかった。
もう自分には、自分の為に涙を流す、その権利すらないのだから――。
ひとしきり笑ったヴィヴィは、むくりと起き上った。
「馬鹿馬鹿しい……」
そう自分のしていることを自ら叱咤すると、疲労困憊の体を引きずるように立ち上がる。
ゆっくりとしたストロークで出口に辿り着き、リンクから出ようとしたヴィヴィの目の前に、朝比奈の姿があった。
いつも優しく細められている銀縁眼鏡の奥の瞳が、今は笑っていなかった。
「お嬢様……屋敷に戻りましょう」
固い声でそう言われ、リンクから出たヴィヴィは朝比奈を見つめ返す。
(だから、お兄ちゃん、ドイツ語だったのか……)
実は帰国子女である朝比奈は、英語とフランス語が堪能だから。
きっと匠海なりの、最低限の心配りだったのだろう。
ぼうとその場に突っ立ったままのヴィヴィを、朝比奈が再度促す。
「お嬢様」
今度は少し厳しい声。
ヴィヴィは小さく頷くと、エッジケースをつけ、着替えるために更衣室へと向かった。