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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第8章
その日も、クリスとみっちりレッスンを受けたヴィヴィは、気分上々で篠宮邸の門をくぐった。
ヴィヴィが即興で造ったエキシビションナンバーを、母と若干 手直しして完成させたのだ。
私室に戻り、手早く入浴を済ませバスルームを出ると、
驚いた事にリビングの白革のソファーに、匠海が長い脚を投げ出して座っていた。
「あれ。どうしたの、お兄ちゃん?」
ヴィヴィはしょっちゅう兄の部屋を訪ねるが、その反対は殆どない。
あまりに珍しい匠海の行動に、ヴィヴィは首を傾げた。
「うん、別に用事があったわけじゃないんだけど。ここ数日、2人とあんまり顔、合わせてなかったから……」
そういえば、朝は匠海が起きる前に家を出て、学校から帰ってきても宿題を終わらせ、ピアノとヴァイオリンをそれぞれ練習し。
ディナーを取って直ぐに、リンクへと向かってしまっていた。
しかも24時前に帰宅しても、カレンから借りたコミックを早く読んでしまおうと、寝室に籠っていたので、匠海の顔をあまり見れていなかった。
普段なら何かと、妹のほうが兄にちょっかいを出しに行くので、大体毎日 顔を見れていたのだ。
(お兄ちゃん、ヴィヴィに会いに来てくれたんだ……)
思わず、小さな顔がにんまりしてしまう。
「お兄ちゃん、ヴィヴィに会いたかったんだ?」
思ったままを口にしたヴィヴィだったが、あまりにもあっさりと切られてしまった。
「いや、ヴィヴィだけじゃなく、これからクリスにも会いに――」
匠海が言い終わらぬ前に、ヴィヴィは兄に駆け寄り、飛びつきそうな勢いで首に縋り付く。
「照れない、照れない♡」
全く聞く耳を持たないヴィヴィに、匠海は軽く嘆息すると、妹の腕を解いて隣に座らせた。
「風邪はもう、大丈夫なんだな?」
ほんのりピンク色の頬に、大きな掌を添えられ、顔を覗き込まれれば。
ヴィヴィはくすぐったそうに、少し身を捩った。
「うん、すぐ治ったよ。それよりシャンプー変えたの! この香り、お兄ちゃん好き?」
ヴィヴィは乾かしたばかりの髪を指さし、兄に意見を求める。
「どれ……」
上半身を倒して、隣のヴィヴィに匠海が近づく。
後頭部に大きな掌が添えられ、軽く引き寄せられた瞬間、
トクリ。
薄い胸が小さく疼いた。
(……………?)