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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第48章
匠海が帰国した翌日――日曜日。
ヴィヴィは朝練の支度を整えると、階下へと降りた。
いつもならクリスのほうが早くに玄関ホールにいるが、今日はまだのようだ。朝比奈が一人、ソファーの傍に控えている。
「おはようございます、お嬢様」
「おはよう、朝比奈」
ヴィヴィは朝比奈を一瞥すると、スケート靴と荷物をソファーに置き、その隣に腰を下ろした。
腕に巻いたスウォッチを確認すると、成程、クリスが遅いのではなくて、自分が早すぎたのだと気付く。
昨夜、匠海と共にヴィヴィを迎えに来た朝比奈は、自ら運転する車の後部座席に乗せたヴィヴィに、静かに尋ねてきた。
『私はずっと、確認する事をためらっておりました』
『…………何、を?』
ヴィヴィは会話をするのも億劫で、シートに身を預け、瞼を閉じたまま細い声で聞き返す。
『お嬢様の首にあのような痕を付けたのは、匠海様、ですね?』
『………………』
朝比奈の言葉に、ヴィヴィの閉じていた瞼が開く。
『まだご主人様には報告しておりません。お嬢様が落ち着かれてからお話を伺おうと思い、そのままずるずると確認しそびれておりました』
そう淡々と報告する朝比奈を、ヴィヴィはバックミラー越しに見つめる。
『どうすればいい?』
『どうすればいい、とは――?』
また静かに聞き直す朝比奈に、ヴィヴィは即答する。
『どうすれば、両親に黙っていてくれる?』
朝比奈がゆっくりと路肩に車を寄せ、停車させた。サイドブレーキを掛け、両手が膝の上へと折り目正しく揃えられる。
『……つまり、否定はされないのですね?』
走行音が無くなり、カッチンカッチンというハザードランプを焚く音だけがする静かな車内に、朝比奈の声だけが下りる。
ヴィヴィはバックミラー越しにずっと朝比奈を見つめていたが、彼は決して自分と目を合わそうとしない。
ヴィヴィもそこから視線を外した。
『お兄ちゃんは、本当に何も悪くないの……。私が馬鹿なことをしたから、必死になって止めようとした。ただ。それだけ……』
(本当に……)
『では、ご命令下さい』
『え?』
朝比奈の発言の意図が見えず、ヴィヴィは今度は直接、朝比奈の後ろ姿を見やる。