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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第48章
『ご主人様に報告するなと、ご命令下さい』
(朝比奈……?)
何故朝比奈がそんなことを言うのか、ヴィヴィには分からなかった。だが、本当にそんな命令で両親に報告しないでくれるなら、とヴィヴィは静かに命令した。
『両親には……言わないで……』
『畏まりました』
『……朝比奈……? どうし――』
『今回だけです。次は絶対にありません』
主人の言葉を遮るように、朝比奈が言い切る。
『え?』
『次に、匠海様が私のお嬢様に手を上げる様なことがあれば、その時は、絶対に許しません――』
それは心の奥底に溜め込んだ怒りを、必死に噛み殺したような声だった。
『………………』
静かに車を出した朝比奈の後ろ姿からは、ちりちりとした緊迫した怒りが感じられた。
しかし、その後屋敷についてからは、いつも通りの優しく接してくれた朝比奈に、ヴィヴィは何も言うことが出来なかった。
「あれ……?」
クリスの不思議そうな声で、ヴィヴィは追憶から引き戻された。
「おはよう、クリス」
立ち上がって、クリスにおはようのハグをする。
「おはよう……結局、カレンち……泊まらなかったんだ?」
「うん。あれからお買い物に行ったんだけど、やっぱり練習したくなっちゃって」
「ふうん。ちょっと疲れた顔……ちゃんと寝れた?」
ハグを解いたクリスが、ヴィヴィの頬に手を添えて顔を覗き込んでくる。
「うん。ぐっすり」
ヴィヴィがそう答えて笑うと、双子は車に乗り込みリンクへと向かった。
日曜なので平日より長めの朝のレッスンを終え、双子は篠宮邸へと戻り、父と朝食を取った。
「匠海は出かけているのか?」
父グレコリーが残念そうにそう言って、広いダイニングを見回す。
「ご友人・知人の方々に、ご挨拶に回られるとのことです」
匠海の執事の五十嵐から伝達されたのか、朝比奈がそう答える。
その答えに、朝食の席で匠海と顔を合わすかもと体を強張らせていたヴィヴィは、ホッとしながらも肩透かしを食らった気分だった。
「そうか。まあ、出発が急だったしな。そういえば、ヴィヴィは匠海とは顔を合わしたのか?」
昨日家族のディナーに戻らなかったヴィヴィに、父が話を振ってくる。