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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第48章
ソファーの後ろに立ち止まった人影はしばらく微動だにしなかったが、やがて、少し骨ばった指先がすっとヴィヴィの白い頬へと伸ばされる。
しかしその指はさらりと音を立てて落ちた金色の髪によって、ピクリと動きを止めた。
一瞬震えたその指はやがて空を掴むように軽く握られる。
その人影は音もなく、リビングの扉から出て行った。
「ん…………」
ヴィヴィが、小さな唸りを上げて覚醒する。
(寝ちゃった……)
少し眠った事で、体がすっきりしたようだ。ヴィヴィはすっかり冷めてしまっている目の前の紅茶の茶器に手を伸ばそうとし、ふとそのまま止まった。
(あれ…………)
微かに懐かしい香りがしたような気がした。
鼓動がトクリと小さく跳ねる。
(………………?)
ヴィヴィはなんだろうと思いながらも、茶器を手に紅茶を飲み下すと、バレエのレッスンへと腰を上げた。
「プリエ……、背中丸めない……はい、ドゥミ・プリエ……伸びた手を見ながら~、肩は同じ位置で……肘落とさないで、グラン・プリエ……4番に開いて、首短くしないで後ろへ反って……はい」
キャミソールに包まれたヴィヴィの華奢な体が、すっと後ろへしなる。ピアノの伴奏に合わせてバーを使ったレッスンを十分行った後は、フロアでのセンターレッスンへと移る。
「3番からピルエットに回るとき、しっかり、そう……回る前のポジション気を付けて~……パッセも早く!」
ヴィヴィは首を長く伸ばすことを意識しながら、パッセと呼ばれる、片方の足を曲げてつま先を軸足の膝につけるパ(動き)をする。
「はい、そこからアラベスク(片足を軸にして、もう一方の足を後ろに上げる形)……腰をしっかり足の上に載せて……胸を前へ……後ろに腰を逃さない……そう」
ピアノの伴奏に合わせ、柔軟性の高い体が美しく形作られていく。
「シソンヌ、シソンヌ、シソンヌ、アチチュード(アラベスクで上がった足を曲げた形)……ストップ! ヴィヴィ、飛ぶ逆のほうの足を綺麗に伸ばして」
「はい」
『眠れる森の美女』の第3幕・オーロラ姫のヴァリアシオンのレッスンへと移ると、今まで順調だったヴィヴィは途端に何度も止められ、注意を受けた。