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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第48章
今日も物音一つしない、その部屋。
暫くじっとそちらを見つめていたヴィヴィは、やがて視線を外すと静かに書斎へと向かった。
クリスと夕食を終えた後、双子はリンクへと向かった。
ストレッチと筋力トレーニングを終えると、リンクの上に立つ。3回転アクセルの練習はやりすぎて体を傷めないよう、コーチ陣から時間と回数が制限されていた。一番イメージ通り飛べていた五輪の時の映像をiPadで確認し、頭の中でイメージを膨らませて飛んでみる。
「う~ん、さっきのほうが力みもなくて、軌道も良かった」
サブコーチのチェックを聞き、少しずつ修正していく。結局今日クリーンに降りられたのは、たったの1回だけだった。
(まだこれでは、実戦には入れられないな……)
当初の計画では、今シーズンにジャンプの助走距離を短くする改良を加える筈だったのだが、そもそものジャンプが飛べない状態で、そこまで手が回っていなかった。
その後SPとFPを滑り込み、今日のレッスンは終了した。
双子が篠宮邸に帰り着いたのは23時だった。
ヴィヴィは朝比奈に、もう寝るから今日は下がっていいと伝え、匠海の部屋への扉をノックした。
案の定、その部屋の主は戻っておらず、開いた扉の先も闇が下りていた。
「………………」
ヴィヴィは暗いリビングに足を踏み入れると、L字ソファーの前のテーブルに封筒を置き、匠海の私室から退室した。
入浴し就寝支度を整えたヴィヴィは、バスローブからナイトウェアに着替えると、寝室への扉を開いた。
その時、コンコンと控えめなノックの音が聞こえてきた。
「…………はい」
ヴィヴィはノック音の聞こえたほう、匠海の部屋への扉を振り返り一瞬の躊躇の後、返事をする。
引かれた扉の先に現れたのは、匠海の執事・五十嵐だった。
「失礼致します、お嬢様。匠海様がお呼びです」
「……え……?」
ヴィヴィが固まったようにその場に立ちつくし、固く小さな声を漏らす。
(お兄ちゃん、が……? どうして……?)
瞬時に頭の中をその疑問が駆け巡ったが、すぐに答えに思い至る。
「お嬢様? もしご都合が、悪いようでしたら――」
五十嵐が遠慮がちにヴィヴィにそう尋ねてくる。