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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第48章
半袖のパフスリーブから伸びた細い腕で、そのカードを下げようとしたヴィヴィに、匠海が口を開く。
「お前、どこに外泊するつもりだった?」
「え?」
思わぬ質問に前傾姿勢のまま、ヴィヴィの動きが止まる。
「また、真行寺のところか?」
「…………っ ちが――」
「どうだかな」
挑発するようにそう続けた匠海に、ヴィヴィは体を起こして否定するが、その言葉さえも匠海に切り捨てられた。
匠海はメッセージカードを拾い上げると、大きな掌の中でくしゃりと音を立てて握り潰した。
立ち上がって部屋の隅のダストボックスにそれを捨てた匠海は、そこで振り返り、初めてヴィヴィと視線を合わせた。
「来なさい」
有無を言わせぬ強い声でそう命令し、匠海は寝室に入って行った。
「………………」
ヴィヴィはそんな兄に逆らえるはずもなく、視線を落とすと続いて寝室に足を踏み入れた。
中はベッドサイドのランプだけが灯り、薄暗かった。
匠海が成長するにつれ幾度か模様替えされ雰囲気は変わっているが、小さな頃から訪ねていたそこは、今のヴィヴィにとっては逃げ場のない要塞のように思えた。
自分が兄を蹂躙し、穢した場所。
そこに居るだけで見えない棘に全身を刺されている様な、自らの咎を糾弾されている様な居心地の悪さだけがあった。
「鍵を閉めろ」
匠海の命令にヴィヴィは従順に従い、扉を閉めて内鍵を掛けた。
カチリという小さな金属音さえも響くほど、静寂が下りた寝室。
鍵を掛けた自分の指が震えていることに気づき、ヴィヴィはぎゅっと掌を握りしめた。
俯いたままのヴィヴィに、匠海が次の命令を下す。
「ベッドに上がりなさい」
一瞬、ヴィヴィは何を言われたのか分からなかった。
匠海は今、なんと言った?
(……『ベッドに上がりなさい』……?)
俯いていたヴィヴィの顔がゆっくりと上げられ、
「……え……?」
と、か細い疑問の声が口からこぼれる。
「なんだ? お前に拒否する権利があると思っているのか?」
目の前の匠海はそう言って、蔑む様な瞳でヴィヴィを見据えている。
「………………」
(権利、なんて……ない、けれど……)
ヴィヴィは動揺する心の中で、そう弱々しく言い訳する。