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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第49章           

 ヴィヴィが「お邪魔します」と断って入り、扉が閉められた途端、真行寺に両肩を掴まれ、ヴィヴィの体は玄関の扉に押し付けられた。

 はっとして見上げると、真行寺の顔が自分に迫ってきていた。

(キス、しちゃうんだ、私……お兄ちゃん以外の、男の人と……)

 ヴィヴィはここまで来ておきながら突然怖くなり、ギュッと瞼を閉じて身を固くする。

 キスされると構えていたヴィヴィだったが、唇に感じたのは暖かい吐息だけだった。

「可愛いね……」

 小さな苦笑と共に、零された呟き。

 そして数秒後、こつりとヴィヴィが持たれていた扉に、何かがぶつかる音がする。

 恐る恐る瞼を上げると、真行寺がおでこをヴィヴィの後ろの玄関扉にぶつけていた。

「ごめんね……。僕には君を抱くことは、出来ないんだ」

 真行寺は静かにそう言って、ヴィヴィと扉から体を離した。

「私……そんなに女として、魅力、ないですか……?」

 呆然としたヴィヴィから、そう掠れた声が漏れる。

「わからない……」

 困ったようにそう言って笑う真行寺は、決して嘘を言っている訳ではなさそうだった。しかし、

(わからない……?)

 ヴィヴィが怪訝そうに真行寺を見上げる。

「けれど、僕にも分かることがあるよ」

「…………?」

「辛い恋を、している……そうだね?」

 ヴィヴィの瞳が、驚愕で大きく見開かれる。

 その灰色の瞳が、徐々に小刻みに震え始めた。

(もしかして、お兄ちゃんへの気持ち……気づかれてしまったの……?)

 決して他言してはならない己の秘め事が露呈してしまい、動揺したヴィヴィがその場で硬直する。

「心配ない……誰にも言ったりしないから……」

「……え……?」

 真行寺の言葉に、ヴィヴィが掠れた声を上げる。

「君の気持が、痛いほど解るから……」

(真行寺、さん……?)

 どういう意味か分からず当惑したヴィヴィに、真行寺が言葉を継ぐ。

「解るよ……僕も、そうだから……」

 覗き込んでくる真行寺の瞳には何故か悲しい色が浮かび、まるで泣いているように見えた。

「………………」

(この人も、誰かに報われない恋を、しているの……?)

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