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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第50章      

(な、何言って……!? で、出来る訳、ないじゃないっ。だって、ヴィヴィ、お兄ちゃんに殺されかける位、嫌われてると思ってたし……実際『復讐』してやるって、言われたし……)

 ヴィヴィが頭の中でそう言い訳をしていると、クリスが意外そうに、

「そうなの……?」

とヴィヴィを振り返る。

「あ……えっと、……その……」

 うまい言い訳が思いつかず、ヴィヴィがしどろもどろで言い淀む。

(まさか、クリスに「お兄ちゃん強姦して殺されかけた」と言う訳にもいかないし……)

 額に冷や汗が滲み始めたのが自分でもわかる。

「まあ、俺達、ずっと喧嘩してたからな」

「……え? 兄さんと、ヴィヴィが……? 初めて、じゃない……?」

 クリスが物凄く意外そうに、二人を見比べる。

 確かに、ヴィヴィにも匠海と喧嘩した記憶が一つもない。叱られることはしょっちゅうあったが。

「まあ、全面的に、ヴィヴィが悪かったんだけどな」

 その匠海の説明に、ヴィヴィがびくりと体を戦慄かせた。

「……そう、なの……?」

 初めて妹のヴィヴィの事を家族の前で詰(なじ)る匠海に、クリスが少し怪訝そうにし、そしてヴィヴィの意見も求めてくる。

「う、うん……」

 ヴィヴィはクリスと目が合わせられなくて、曖昧にそう頷く。

「ふうん……、で、仲直りしたの?」

「どうかな――」

 匠海が少し首を傾けてそう言うと、何事もなかったかのようにステーキを切り分け、口へと運ぶ。

 ヴィヴィの喉がぐっと詰まる。

「………………」

 ヴィヴィは食欲などなくなり、目の前に出されたまま冷めていくスズキのポワレに、視線を落としていた。

「……? まあ、らしくないこと、してないで、早く、仲直りしなよ、ね……?」

 クリスがそう言いながら、隣の席のヴィヴィの頭をよしよしと撫でる。

「クリスも、俺のいない間、一人で『じゃじゃ馬ヴィヴィ』の面倒大変だと思うけど、任せたぞ」

「了解……」

 匠海のからかいを含んだその言葉に、クリスは小さく肩を上げて見せた。

「………………」

(クリス、そこ、否定しないんだ……)

 ヴィヴィはそう心の中で突っ込み、匠海のほうをちらりと盗み見た。

 匠海はヴィヴィのほうに目を向けることもなく、ずっとクリスと近況を報告しあっていた。




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