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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第50章      

「ああ。なんか、すごく嫌がられたけど……。久しぶりに可愛い寝顔が見れた」

と満足そうな匠海が、ソファーに座ったままのヴィヴィに近づいてくる。

「……あはは……」

(クリス……ご愁傷様……)

 乾いた笑いをもらしたヴィヴィは、心の中でクリスに同情する。

「そういえば、クリスに『ヴィヴィには添い寝しなくていいから』って何回も釘刺されたぞ」

「へ、へえ……」

 困ったように笑うヴィヴィの座るソファーの背に、匠海が手を付いてヴィヴィの顔を至近距離で覗き込んでくる。

「添い寝、してやろうか?」

 そう言った匠海の表情は以前の、『妹のヴィヴィ』をからかうもので。

 久しぶりに見せてくれたその楽しそうな表情に、ヴィヴィの胸がトクンと疼く。

(お兄ちゃんの添い寝……めちゃくちゃ、してほしい……!)

「……う、うんっ」

 ヴィヴィは頬を薄紅色に染めながら、素直に頷く。

 けれどそんなヴィヴィを見た匠海の表情が、瞬時に冷酷ものに変化する。

 上体を起こした匠海は、ぎしりと音を立ててソファーの背から手を放すと、自分の部屋への扉へ歩いていく。

「くだらない……さっさと来い。ヴィクトリア――」

「………………」

 背を向け冷たく一蹴されたヴィヴィは、スマートフォンをテーブルに置くと、ソファーから立ち上がった。

 自分の私室の明かりを消し、匠海の寝室へと入る。

「………………」

(お兄ちゃん……二人だけになると『ヴィクトリア』って呼ぶ……)

 ヴィヴィはそう思いながら鍵を掛け、匠海が立っている窓枠へと近づいていく。

 いつものようにベッドに行かないヴィヴィに、匠海が怪訝そうに見つめ返してくるが、ヴィヴィは静かにその目の前に立った。

 ヴィヴィがパフスリーブの白のナイトウェアから伸びた手を、匠海の腕へとそっと伸ばす。

 掌に、筋肉の付いた固い腕の感触が伝わってくる。
 
 恥ずかしそうに頬を赤らめたヴィヴィは、必死に匠海を見上げた。

「何だ?」

「お兄、ちゃん……」

「今日は誘惑しないのか?」

 挑発するようにそう言ってくる匠海に、ヴィヴィは言い淀む。

(……嫌がられる、かな……。でも……、どうしても……)

 ヴィヴィは勇気を出して、唇を開いたが、そこから漏れたのは蚊の鳴くような声だった。

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