この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第50章
「ああ。なんか、すごく嫌がられたけど……。久しぶりに可愛い寝顔が見れた」
と満足そうな匠海が、ソファーに座ったままのヴィヴィに近づいてくる。
「……あはは……」
(クリス……ご愁傷様……)
乾いた笑いをもらしたヴィヴィは、心の中でクリスに同情する。
「そういえば、クリスに『ヴィヴィには添い寝しなくていいから』って何回も釘刺されたぞ」
「へ、へえ……」
困ったように笑うヴィヴィの座るソファーの背に、匠海が手を付いてヴィヴィの顔を至近距離で覗き込んでくる。
「添い寝、してやろうか?」
そう言った匠海の表情は以前の、『妹のヴィヴィ』をからかうもので。
久しぶりに見せてくれたその楽しそうな表情に、ヴィヴィの胸がトクンと疼く。
(お兄ちゃんの添い寝……めちゃくちゃ、してほしい……!)
「……う、うんっ」
ヴィヴィは頬を薄紅色に染めながら、素直に頷く。
けれどそんなヴィヴィを見た匠海の表情が、瞬時に冷酷ものに変化する。
上体を起こした匠海は、ぎしりと音を立ててソファーの背から手を放すと、自分の部屋への扉へ歩いていく。
「くだらない……さっさと来い。ヴィクトリア――」
「………………」
背を向け冷たく一蹴されたヴィヴィは、スマートフォンをテーブルに置くと、ソファーから立ち上がった。
自分の私室の明かりを消し、匠海の寝室へと入る。
「………………」
(お兄ちゃん……二人だけになると『ヴィクトリア』って呼ぶ……)
ヴィヴィはそう思いながら鍵を掛け、匠海が立っている窓枠へと近づいていく。
いつものようにベッドに行かないヴィヴィに、匠海が怪訝そうに見つめ返してくるが、ヴィヴィは静かにその目の前に立った。
ヴィヴィがパフスリーブの白のナイトウェアから伸びた手を、匠海の腕へとそっと伸ばす。
掌に、筋肉の付いた固い腕の感触が伝わってくる。
恥ずかしそうに頬を赤らめたヴィヴィは、必死に匠海を見上げた。
「何だ?」
「お兄、ちゃん……」
「今日は誘惑しないのか?」
挑発するようにそう言ってくる匠海に、ヴィヴィは言い淀む。
(……嫌がられる、かな……。でも……、どうしても……)
ヴィヴィは勇気を出して、唇を開いたが、そこから漏れたのは蚊の鳴くような声だった。