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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第50章      

「……キ、ス……しても、いい?」

 触れている匠海の腕が、一瞬ピクリと動いた気がしたのは気のせいだろうか。

 元々静かな寝室に、さらにしんという音が聞こえそうなほどの静寂が下りるのが苦しい。

 縋る様な瞳でじっと匠海を見上げていると、兄はゆっくりとヴィヴィのほうに上体を傾けてきた。

 それを了承ととったヴィヴィは、匠海の腕に添えた掌を支えに、恐る恐る背伸びをする。

 自分が小さく震えているのが分かる。

 鼓動も五月蠅いほどどくどく脈打っている。

 恥ずかしい。

 とてつもなく恥ずかしい。

 以前、『兄妹は唇にチューするのもだめなの?』と無邪気に尋ねた自分に、匠海は『絶対ダメ』と即答してきた。

 けれどそんな匠海が、妹である自分に、唇に触れる権利を与えてくれたのだ。

(お兄ちゃん……好き……)

 目の前に迫った形のいい匠海の唇に、ヴィヴィは気持ちを込めてそっと自分の薄いそれを押し付けた。

 ヴィヴィの唇より少し厚く弾力のあるそれに、チュッとリップ音をさせて吸い付き、やがて名残惜しそうに離れる。

(チュー、しちゃった……ファーストキス、しちゃった……お兄ちゃんと……っ)

 ヴィヴィの薄い胸の内がほうと温まる。

 徐々に湧き起こる幸せを噛みしめるように、俯いて唇を窄めたヴィヴィだったが、匠海からは嘆息と共に呆れ果てたような言葉が下りてきた。

「……それだけか?」

「……え……?」

 ヴィヴィは匠海の言葉の意味が分からず、ゆっくりと顔を上げて背の高い匠海を不思議そうに見上げる。

(それだけ? って、どういうこと……? えっと……もっと、何回もすればいいのかな……?)

 ヴィヴィはまた背伸びをすると、小鳥の様にチュッチュッと何度も、匠海の唇に自分のそれを重ねる。

 けれどそれは、ヴィヴィの腰を引き寄せた匠海により、中断させられた。

「ヴィクトリア、お前――これだけの性知識で、よくも俺のこと、襲ったな?」

 その匠海の声は、心底呆れたものだった。気のせいか、少し悔しそうにも聞こえる。

「え……?」

「初めてなのに俺の上に乗って、腰振ってた」

 その時のことを思い出させるかのように、匠海が薄いナイトウェアの上から、ヴィヴィの細い腰を撫で上げる。

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