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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第50章      

「ごめん、なさい……。あの時は本当に、どうか、していたの……」

 匠海を強姦してしまった時のヴィヴィは、正気ではなかった。

 退路を断たれたと思い込んで勝手に追い詰められ、自分の溜め込んだ気持ちの捌け口がそこだけであると信じ込み、ただただ自分の慾のために暴走してしまった。

 結果、匠海の手を汚させることになり、自分は兄の憎しみの対象となってしまった。

(本当に……あの時のヴィヴィは狂っていた……。

 自分が『サロメ』になった気になって、独りよがりな汚い欲望に、酔いしれていた……)
 
 目の前で反省の色を見せるヴィヴィの腰から手を放した匠海は、一人ベッドのほうへと歩いていく。

 長い脚で軽々と高いスプリングの上に乗り、まだ窓際に立ったままのヴィヴィに視線をやる。

「こちらへきなさい」

「……は、い……」

 匠海からの命令に、ヴィヴィは静かにベッドへと近づいていく。

(けれど……お兄ちゃんは、今、自分を『女』として見てくれている……。

 それは紛れもなく、自分がお兄ちゃんを無理やり穢したから……)

 だから、ヴィヴィは自分の凶行を反省する気持ちもある一方で、

 ――実は正しかったのでは?

 ――こうすることでしか、兄は絶対自分を『女』として見なかったのでは? 

 という気持ちも存在していることを否定できない。

「………………」

(嫌がりながらも、今はヴィヴィの事、抱いてくれる……。『女』として、見てくれる……。それだけで、嬉しいの……)

 静かな音と共にスプリングに昇ったヴィヴィは、匠海に近づく。

 ベッドヘッドと枕の山に凭れ掛かった匠海は、胡坐をかいていた。

「跨りなさい」

 そう命令した匠海は、ヴィヴィが躊躇しながらも素直に従って匠海の腰に跨るのを、見つめていた。

 ヴィヴィは匠海の肩に軽く手を掛けながら、おずおずと兄を見つめる。

 いつも20センチ程上にある匠海の整った顔が、今は目の前でじっと自分を見つめている。

 高くて綺麗な鼻や大きめの唇、すっとした輪郭は父グレコリーに似ているが、彫の深い切れ長の瞳は違う。

 いつも静かで知的な光を宿している、その灰色の瞳で真っ直ぐに見つめられると、ヴィヴィはそわそわしてしまう。

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