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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第50章
「…………え?」
「イギリス」
「………………」
「明日は遅くまで仕事で、そのまま空港の近くに泊まって、渡英するから」
「………………」
「ヴィクトリア? 寝たのか……?」
ヴィヴィはギュッと目を閉じたまま、身動きしなかった。
怖かった。
この次に言われるであろう言葉が、恐ろしかった。
『だから、お前とは今日が最後だ――』
馬鹿で、浮足立っていた自分でも、それ位は解る。
ヴィヴィを殺したいほど憎んでいる匠海は、その『復讐』として妹である自分を抱いた。
だからきっと、この次は、もうない。
だって、ヴィヴィを女として愛していない匠海には、もうヴィヴィを抱き続けるメリットは一つもないから。
匠海にとってはヴィヴィはもう、『復讐』し終えた、ただの出来損ないの妹。
もしくは、それ以下。
(聞きたく……ない……。
お兄ちゃんの口から、もう終わりだよって、言われたくない……っ)
ヴィヴィが寝たものと思ってくれたらしい匠海が、小さな嘆息を一つ落とし、ヴィヴィの体をベッドに横たえた。
そして自分もその隣に横になると、ヴィヴィの頭を、髪を、頬を撫でてくる。
優しい、まるで大切なものを慈しむような、繊細な指先だった。
やがてその指が止まり、すうすうと静かな寝息がヴィヴィにまで届いてくる。
ヴィヴィの瞑ったままの瞼から、ぱたりと涙が零れ落ちる。
(嫌、だ。
嫌……。
お願い……、お願いだから、私を、愛して……。
そんなに優しくしてくれなくてもいいから、酷くしていいから。
だから、私を女として、愛して――)
胸が苦しくて、潰れそうなほど苦しくて、張り裂けそうになる。
ヴィヴィは漏れそうになる嗚咽を殺しながらそのまま涙を流し続け、そしていつの間にか昏い深淵へと落ちていった。