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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第51章      

 俯いたヴィヴィから上半身を離した匠海が、ぎしりと音を立て、スプリングに付いていた腕を離す。

「じゃあな」

 その言葉だけ置いて、匠海はヴィヴィの寝室から出て行った。

 静まり返った寝室の中、閉じられた扉の音が、いつまでもヴィヴィの頭の中に残っていた。

 白いシーツの上に取り残されたヴィヴィが、俯いたままじっと微動だにしない。

「………………」

(じゃあな……か。

 あっけない、ものだな……)

 ヴィヴィはぼんやりとする頭の片隅でそう思うと、やがて怠そうにベッドから降り、バスルームへと消えていった。





「昨日、兄さん……本当に、添い寝しに来た……」

 朝練を終えたリンクからBSTへと向かう車中、iPadを手にしたクリスが、げんなりした声で呟いた。

「そうなの?」

 ヴィヴィがそう相槌を返すと、

「……もう、じ~っと見られて……頭撫でられて、寝にくいの、なんのって……」

とクリスがぶつぶつと零す。

「でも、寝ちゃったんでしょう?」

「…………うん」

 そう渋々頷いたクリスが可愛くて、ヴィヴィはその肩に頭を凭れかけた。

「なんか、ヴィヴィ、眠そう……?」

「うん……とっても……」

 ヴィヴィはそう言うと、学校への短い通学時間、クリスの傍で眠りについた。

 学校でかなりウトウトして周りを心配させたヴィヴィだったが、屋敷に戻り仮眠と夕食を取ると、生き返ったように元気になり、夜の練習に参加した。

「じゃあ、昨日の復習ね~。ワルツポジションで5周~」

「「はい」」

 双子はジュリアンの指示に、素直に返事をすると向かい合ってホールドを組み、ウィンナワルツが鳴り響くリンクの中を滑り始める。

「組手ぐらぐらしない~。ヴィヴィ、クリスの肩に乗せた左腕、もっと高く!」

 滑り始めた途端、ジュリアンの注意が飛びまくる。

 言われたことに気を付けながら、ターンを繰り返しながら滑り込む。

「二人とも足元ばっかり見ない! もっと見詰め合って~」

 ジュリアンの指示に足元から顔を上げた双子は、 

「あいた……っ」

「ごっ、めん……」

 案の定、お互いの高い鼻をぶつけてしまった。

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