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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第51章
ヴィヴィが扉の傍の壁を指で辿り、照明パネルをオンにする。
明るい照明が照らし出したのは、主が不在の為使用されない家具達に被せられている、白い布。
ヴィヴィの灰色の瞳がぴくりと震える。
しばらくそこに放心状態で立ち尽くしたヴィヴィは、やがて視線を寝室へと移した。
絨毯敷きの床を滑るように歩を進め、寝室の扉を開ける。
漆黒の闇が下りたそこに、リビングからの光が差し込む。
そこには誰もいないのに、何故か物心付いたころから嗅ぎ慣れた、懐かしい匂いがした気がした。
「お兄、ちゃん……?」
ヴィヴィが小さく呼びかけたその声は、静寂の下りた寝室に、響くこともなく吸い込まれる。
そのことが余計、ここに匠海が居ないという事を証明しているようで、ヴィヴィの喉がぐっと詰まる。
「お兄ちゃん……本当に、行っちゃったん、だね……」
ヴィヴィがそう匠海に語りかけるように呟きながら、ベッドへと歩み寄る。
黒色のファブリックで統一された、大きなベッド。
ヴィヴィが匠海を犯し、そして匠海が『復讐』と称し、ヴィヴィを抱いた場所。
それら全てがここ2ヶ月程で起こったことなのに、まるで昨日の事のように思い起こされる一方、もう随分昔のことのようにも思われた。
「………………」
(お兄ちゃん……ヴィヴィには、まだ、解らないの……。
どうして、ヴィヴィを抱くことが、
お兄ちゃんにとって『復讐』になるのか――)
愛しい匠海に抱かれて舞い上がる一方、ヴィヴィは心の隅でずっと問い続けていた。
その行為が耐えざる痛みを与える行為であったり、人間としての尊厳を踏みにじる行為であったりすれば、ヴィヴィも納得したかもしれない。
ああ、これは、この躰を繋げる行為は『復讐』なのだと。
(だけど、お兄ちゃんは、ずっと優しく触れてくれた……)
口ではヴィヴィを蔑みながら、絶対に快楽しか与えなかった。
だから、今でも分からない。
それとも、分からないほうが幸せなのだろうか……?
ヴィヴィは小さく軋む音を立てながら、ベッドのスプリングに腰を下ろす。
指の腹に感じるシーツの感触に、ふっとヴィヴィの唇が綻ぶ。
「ありがとう……」
今、匠海に伝えたい言葉が、薄い唇から零れ落ちる。