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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第9章
無事試験を乗り切れば、すぐに3日間のジュニア合宿が名古屋で行われるため、
双子とジュリアンは東京を後にした。
ノービスの頃から毎年合宿に参加しているヴィヴィは、いつも出発日に、
「試合でもないのに、お兄ちゃんと3日間も離れるのやだぁ!」
と散々ごねて周りを困らせてきた。
しかし、今年は何も言わずに粛々と準備を進めるヴィヴィを、
周りの大人達は「ヴィヴィも大人になりつつあるんだね」と呑気に見ていた。
けれど意識的に避けていても、家族なのだから必ずどこかで顔を合わす。
名古屋から帰ってきた双子と母を迎え、家族でディナーの時間が設けられた。
約2週間ぶりに まともに見た匠海は少し日焼けしていた。
白くて並びの良い歯が いつもより眩しく見える。
明日からもう8月、きっと誰かと海やプールへ繰り出したのだろう。
そう、誰かと――
(……誰、と……? 麻美さん、と……?)
「………………」
機械的に食事を口に運んでいたヴィヴィは、また己が気にすべきでない事を考えてしまった自分を叱咤し、咀嚼し終えたものを飲み込む。
砂のように食道を滑り落ちていく、虚無への供物。
味なんて、感じる余裕すらなかった。
8月初旬はアイスショーに出演し、
ヴィヴィは自分で初めて振付した When you wish upon a star を初披露した。
周りの反応は上々で、なんと日本スケート連盟の幹部も見に来ていた。
『可愛らしくて無邪気なヴィヴィに、ピッタリよ!』
『自分で振付したナンバーだからかな? 表現豊かに滑るようになったね』
周りからの賛辞にも、ヴィヴィは礼を言って曖昧に笑みを零すことしか出来ない。
星に願いをかけるなら
君がどんな人だって構わない
心から願う その気持ちは きっと叶うんだよ
(本当に――?)
栃木県日光でのアイスショーを終え帰宅の途につく車中、
ヴィヴィはドアに凭れ掛かり、東京の煌びやかなネオンを見るともなしに見つつ疑問に思う。
(本当に、私が『どんな人』だって、心から願えば願いは叶うの――?)
ついと視線を上げ夜空に星を探したけれど、
地上の明るさに簡単に掻き消されてしまう微弱な星の光は、ヴィヴィの瞳には届かなかった。