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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第51章      

 血の繋がった実の兄という、蜜の味を貪ってしまった自分は、

 その味を欲して永遠に餓え、

 けれど決して与えられることのない蜜を渇望し、

 ただ羨望の眼差しで追い続けることしか生きる道がない。

「……――っ」

 ヴィヴィの薄い唇が、その白い歯でぐっと噛み締められる。

(でもね、お兄ちゃん。

 そんな事、しなくても、ヴィヴィはお兄ちゃんしか見てないよ。

 きっとこれからも、ずっと。

 私は貴方しか目に入らないのだから――)



『自分がお兄ちゃんに対して出来る、唯一の贖罪。

 ――お兄ちゃんが与える『復讐』をこの身に受け止めながら、生きること』



 匠海に『復讐』を言い渡された時に決意した、自分の言葉が蘇り、ヴィヴィはそれを受け入れるようにぐっと瞼を閉じた。





 どれほどの時間、そうしていたのだろう。

 そっと瞼を開けたヴィヴィの視線の先、遮光カーテンの隙間から、薄暗い明かりが差し込み始めていた。

 ヴィヴィはゆっくりと立ち上がると、窓際へと寄っていく。

 匠海を必死に誘惑するヴィヴィを、兄がじっと冷酷な瞳で見つめていた、その場所へ。

 カーテン越しに窓枠に凭れ掛かり、寝室の中央に据えられた黒いベッドへと視線を移す。

「…………ふふっ」

 ヴィヴィの小さな顔に、困ったような笑い顔が広がる。

 こんな貧相な躰で大人の匠海を誘惑するヴィヴィは、兄には酷く滑稽に映ったことだろう。

 けれど、 

 それでも、匠海に今伝えたい言葉は変わらない。

 『ありがとう』。

 一瞬でも、夢を見させてくれて、本当にありがとう。

 何故なら、こんな結末を迎えてしまった今でも、

 匠海を――実の兄を一人の『男』として愛したことを誇りに思う自分が、

 ここにいるから。





  大好きよ。

  いつまでも、大好きよ。

  優しいけれど意地悪で、

  慈悲深いけれど残酷な、




  ――私の、お兄ちゃん。




 ヴィヴィは心の中でそう告白すると、静かに匠海の寝室を後にした。






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