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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第52章
「ただし――」
「?」
「僕、結構、完璧主義なところ、あるみたいで……。ヴィヴィが、僕のスケジュール通りに、進まなかったら……どうなるか、わからないから、ね……?」
そう恐ろしいことをさらりと言って見つめてきたクリスの顔は、今まで見たことのない、般若の如き様相だった。
「……――っ」
(く、クリスっ!? 目……っ! 目っ、怖いからっ!!)
灰色の瞳を真ん丸にして顔を引き攣らせたヴィヴィから、視線をずらしたクリスは、
「ってことだから……。朝比奈も、ビシバシよろしく……ね?」
書斎近くに控えていた朝比奈に視線を移したクリスが、有無を言わさぬ雰囲気で自分達の執事に命令した。
「は、はい。畏まりました、クリス様……」
きっと朝比奈に向けられた顔も、般若の如き表情だったのだろう。
「………………」
ヴィヴィは心の中で朝比奈に同情しながら、がっくりと肩を落とした。
(こんなところに、『教育ママ』ならぬ『教育兄』が居たとは……。そ、想定外すぎる……)
それからというもの、クリスはその『教育兄』ぶりを発揮しまくった。
ヴィヴィが少しでもクリスの立てたスケジュールを違えようものなら、終わるまでずっとヴィヴィの書斎に陣取り、隣で見張っている。
さらにヴィヴィがうとうとしようものなら、ヴィヴィが泣いて「ごめんなさい~っ! やるから! やりますからっ!!」と懇願するまで、『脇腹くすぐりの刑』が執行される。
(こ、殺す気か……、クリスめ~……っ)
ヴィヴィはいつもくすぐられては、ぜいぜいと息を乱しながら、クリスに対して徐々にフラストレーションを溜めていくのだった。
「ヴィヴィ……、だ、大丈夫?」
日に日にぐったりしていくヴィヴィに、登校してきたカレンが心配そうに尋ねてくる。
「カレン~っ! クリスが虐めるのぉ~っ!!」
涙目でカレンに縋り付くヴィヴィを、
「苛めてない……」
とクリスが即座に否定する。そのクリスの無表情が恐ろしかったのか、カレンは焦ったように話題を変える。
「そ、そういえば、ヴィヴィ、予備校の模擬試験、受けたんだよね? 結果、どうだったの?」
そのカレンの疑問は、全然話題を変えるに至っていなかった。