この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第52章
「ど……っ、どうしちゃったの、クリスってば……?」
「わ、分かんない……。何がどうなっちゃってるのっ!?」
「クリスがあんなにキツイこと言うの、初めて聞いたよ、俺……」
双子がいなくなったクラスルームが、ざわざわと騒がしくなる。
BSTの生徒は殆どの者が、幼稚舎から高等部までの幼馴染。物心ついた頃からずっと一緒にいるクリスのあまりの豹変に、皆が一様に呆気に取られる。
数分後、クラスルームには落ち着きが戻る。そしてしばらくすると、皆が一様にお互いの顔を見合わせ、
(触らぬクリスに、祟りなし……)
と一斉に、同じ教訓を心の中に刻んだのだった。
「ク~リ~ス~。クリスちゃ~ん……。教室、戻ろうよ?」
ヴィヴィは授業が始まる鐘の音を聞き、クリスにそう尋ねる。
「いやだ……」
クリスは裏庭の樹木の幹に背を預けながら、そうつれない返事を返す。ヴィヴィはその樹木の後ろから、クリスに話しかける。
「授業、始まっちゃったよ?」
「………………」
「クリスの大好きな、世界史、だよ?」
「………………」
「クリス~……。どうしちゃったの……?」
「………………」
何度呼びかけても応じてくれないクリスに、ヴィヴィは「う~ん」と首を捻っていたが、やがて芝生の張られた樹木の傍にぺたりと座り込んだ。
「こっちおいでよ、クリス……。立ってるより、楽ちんだよ~」
ヴィヴィはそう言うと、自分の隣の芝生をぺしぺしと掌で叩く。無言で振り返ったクリスは、不承不承その隣に腰を下ろした。
くすりと笑ったヴィヴィは、静かにクリスの肩にその華奢な半身を預ける。
「そんなにヴィヴィに、東大行ってほしいの?」
「うん……」
やっと返事をしてくれたクリスに、ヴィヴィもほっとする。
「どうして?」
「一緒に、いたい……」
「……クリスがそう言ってくれるのは、とっても嬉しいけれど……。多分希望する学部は、お互い違うよね?」
クリスはメカ好きなので、きっと工学や理工学方面へ進むだろう。そしてヴィヴィはまだ迷っているが、文系に進むのはほぼ確定している。同じ大学に在籍していても、校舎も違えば、一緒に通学することさえままならないかも知れないのに。
「それでも、いい……」
「……クリス……?」