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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第52章       

「まさか……まだ、仲直りしてない、の……?」

 クリスがヴィヴィから体を離すと、少し怪訝そうに見下ろしてくる。

(…………えっと――)

「…………ノー・コメント」

 ヴィヴィはそう言うと、自分の口を片方の掌で覆いながら、もう片方の手でイヤホンを装着し動画を再生した。

「……は、あ……?」

 イヤホン越しにクリスの呆気に取られた相槌が聞こえたが、ヴィヴィは聞こえないふりを決め込んだ。そのうちクリスが諦めたように、自分もイヤホンを装着してiPadで動画を確認し始めた。

「………………」

(ごめん、クリス……。だって、ヴィヴィにも、分からないから……。

 兄妹としては、表面上は仲直りしたのか、どうなのか……)

 そう心の中で当惑し、けれど動画を睨むように見つめていたヴィヴィは、結局そのコマの授業は全く頭に入らなかった。

 ぽんぽんと頭を叩かれたヴィヴィが視線を上げると、後ろの席に座っていたジュリアンが、

「あと数分で新大阪よ~、お二人さん?」

と知らせてきたので、ヴィヴィは受講を諦めて下車準備を始めた。





 THE ICEの大阪会場となる大阪市中央体育館に前日入りした双子は、関係者各位に挨拶を済ませると、練習着に着替えて準備を始めた。

「あ……っ」

 クリスとストレッチをしていたヴィヴィは、小さくそう呟き、瞳を輝かせた。

「真緒ちゃんだ~っ!」

 ストレッチ用のスペースに入ってきた浅田姉妹を見つけたヴィヴィは、すくっと立ち上がると憧れの浅田の元に飛んで行った。

「あっ! ヴィヴィだ~。今回は双子プログラム引き受けてくれて、ありがとう」

 そうにっこりと素敵な微笑みを見せてくれた浅田の手を、ヴィヴィがしかと両手で握りしめる。

「とんでもございませんっ! 光栄です~! 同じリンクで滑れるだけでもっ!」

 喜色満面のヴィヴィを目にした浅田が、引きつった笑みを浮かべながら隣に立っている姉の舞依に、

「真緒……新興宗教開いたら、意外に行けるかも……?」

と尋ねれば、

「マオマオ教~?」

と舞依が面白がる。

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