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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第54章         

「初めて聞いた」

「そ……?」

 短くそう呟いたクリスは、アイスコーヒーのグラスを手に取り喉を潤わせると、すらすらと答えた。

「自分で会社立ち上げるところから、やりたい。だから、将来的にはMBA(Master of Business Administration:経営学修士)まで取るつもり……」

「ヴィヴィは絶対、クリスは工学系に行くんだと思ってた。メカ好きだし……、理系科目、大好きだし。でも、そっか~。お兄ちゃんと、ほとんど同じ道を辿るんだね」

「そうなるね……」

 クリスはそう言って頷くと、ヴィヴィに視線を向ける。

「ヴィヴィは……? ヴィヴィは、何したいの……?」

「あ……まだ、迷ってるんだけど……」

「いいよ、言ってみて?」

 ちらりと皆の顔を見渡したヴィヴィに、真行寺が先を促す。

「ヴィヴィ、外交官になりたい……様な気がする」

 最後尻すぼみになったのは、まだ漠然としかそう思っていないからだ。

「へえ……。ヴィヴィは日・英・仏・独の言語いけるし、社交性高いし、合ってるかも……」

 クリスがそう冷静に適性を分析してくれ、ヴィヴィは「そ、そうかな?」と恥ずかしそうに呟く。

「じゃあ、絶対、東大法学部じゃん!」

 双子の話を静かに聞いていた円が、自信満々に言い切る。

「そ、そうなの?」

 ヴィヴィが少し驚いて円を見つめると、円は大きく頷いて身を乗り出した。

「キャリアとノンキャリでも違うけれど、キャリアになるには東大法学部卒が、断然有利!!」

「へえ」

「えっとね――」

 円が説明してくれたことによると、

 国家Ⅰ種試験=事務次官、大使などを目指すコース。

 国家Ⅱ種試験=外交政策の立案や立法関係、内外の外務省関係機関に出向するコース。

 外務省専門職試験=大使館、領事館などで働くコース。

 このうちⅠ種Ⅱ種については、試験に合格した後に、外務省の試験を受けなければならい。そしてその試験こそが、残念ながら学歴主義といってもよい現実があり、東大法学部が強いと言われる理由――らしい。

「へえ……すっごい詳しいね、マドカ」

 ヴィヴィが尊敬の眼差しで円を見つめると、円は豊満な胸を反らした。

「当然でしょ! 私、そこ受けるし」

「へ?」

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