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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第54章
「だから、私も、外交官になりたいんだってば!」
「……えぇええっ!?」
円のまさかの発言に、ヴィヴィは一瞬遅れた後、驚きの声を上げた。
「うち、家系に外交官や官僚、多いんだ~。だから小さい頃からの憧れ? 親族に官僚いると、採用率あがるらしいし」
「へえ……」
なるほど。身近に外交官がいる円のほうが、漠然と憧れているヴィヴィより、実情に詳しく志望動機もしっかりしている。
「だからお兄ちゃん、家庭教師よろしくね?」
「え……?」
氷の解け始めたオレンジジュースをストローで掻き混ぜながら、円がそう何でもないことのように続ける。しかし言われた方の真行寺は、聞き取れなかったのか小さな声を上げただけ。
「え、じゃないっ! 一人暮らしなんてしてないで、家帰ってきてよ! 車で30分でしょうが!!」
「いや……俺、4年で卒論忙しいし、こっちのほうが大学近いし……」
噛みつく勢いでそう言い返す円に、両掌を体の前にかざした真行寺が弱々しく言い訳する。
「だから30分しか変わらないでしょうが!」
「え~……」
「妹の受験と通学往復1時間。どっちが大事なのよっ!?」
「えぇ~……」
究極の選択を迫る円に、真行寺は情けない声を上げ続けるのみ。
(おお、これが『鬼妹』か……)
ヴィヴィはデートの時に聞いた事を頭の中で思い出し、その表現に妙に納得してしまった。
「マドカ、予備校は……?」
真行寺を助けようとしてか、クリスが円に尋ねる。
「勿論、ずっと通ってるよ。でも、東大卒のお兄ちゃんが、合わせてカテキョやってくれたら、完璧じゃん?」
「た、確かに……」
円のその理論は、全くもって真行寺のことを考えていないものだったが、ヴィヴィはなんだか昔の自分を見ているようで、彼女に親近感を覚えた。
「ヴィヴィ達のお兄ちゃんも東大卒でしょ? カテキョしてもらえば?」
「あ……うち、お兄ちゃん今、留学してて……」
「どこっ!?」
留学という言葉に、円が瞳を輝かせて食いついてくる。
「英国の、オックスフォード」
「すごっ!」
マスカラをごってり塗り込めた目を真ん丸に見開いた円に、ヴィヴィが笑う。