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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第54章         

「そうなのか?」

「し、知らない……もん」

 匠海が真っ赤になったヴィヴィに近寄りながら、くすりと笑い声を零した。

「で、でも……お帰りなさい、お兄ちゃん」

 ちらちらと匠海を見上げながら小さな声で何とかそう言い切ったヴィヴィに、苦笑した匠海が両腕を伸ばす。

「ただいま、ヴィヴィ。おいで」

「……――っ」

 目の前の匠海は、以前の彼と寸分の違いもない同じ優しい兄として立っていた。

 ヴィヴィは足に根が生えたかのように、その場に立ち尽くした。

(お兄、ちゃん……?)

 やがて匠海のほうから、目の前のヴィヴィをその胸に抱き寄せた。

 シャツワンピース越しに背中と腰に感じる、匠海の大きな掌が心地いい。

 抱き込まれた胸からは、もう2ケ月も感じることが出来なかった、懐かしい匠海香りと、温かい体温が伝わってくる。

 けれど、ヴィヴィの体は硬直していた。

 普通の兄妹として接しなければと頭では分かっているのに、心と体が付いていかない。

 なぜだろう。

 日英と距離が離れていた昨日までより、抱き合っている今のほうが、より心が遠く感じる。

 こんな近くにいるのに、匠海の前にはヴィヴィに立ち入ることを許さない、見えない壁があるように思えた。 

「よしよし」

 ヴィヴィの金色の頭をそう言いながら撫でる匠海に、クリスが不服そうな声を上げる。

「ハグ、長くない……?」

「約2ヶ月ぶりだから、ヴィヴィ充電中」

 そう悪戯っぽくクリスに返した匠海に、

「は、離れて……」

とクリスが焦ったように言い募る。

「い~や~」

 匠海は心底楽しそうに、ヴィヴィをその胸に抱きしめながらクリスに背を向け、クリスは「兄さんっ」と少し声を荒げて対抗している。

「………………」

(お兄ちゃん……。クリスをからかいたいが為だけに、ヴィヴィのこと抱きしめてる……。なんて意地悪――)

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