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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第9章          

 階上へ上がりクリスと別れ、宛がわれた部屋へと戻る。

 小さなアンティークランプ1つだけを灯した薄暗い部屋。

 ワンピが皺になるのも気にせずベッドに通り倒れんだヴィヴィは、手首をもう片方の手でぎゅうと握り締めた。

「どう……して……」

(どうして、自分はお兄ちゃんに……お兄ちゃんだけに……)

 その先を思うことすら恐怖であるように、強く目蓋を閉じる。

(何も考えるな……何も、感じないで……)

 そう自分に言い聞かせていた時、コンコンとドアがノックされた。

 ヴィヴィは今の心理状態で誰かに会い、普通の対応が出来るとも思えず、居留守を使いたかったが、鍵を掛けていないドアは外から開かれた。

 薄暗い部屋の中に細長い光が差し込み、それは徐々に幅を広げていく。

「ヴィヴィ……? なんだ、いるんじゃないか」

 廊下からの光で来訪者は逆光となり、目視では誰だか判別出来ぬが。

 自分を呼ぶ声一つで、ヴィヴィは相手が誰だが瞬時に分かった。

 ざわざわとざわつき始める心臓をひた隠しながら、ベッドからゆっくり上半身を起こせば、

 板張りの床を こちらへと歩いてくる音は、すぐ傍で止まった。

「……お兄ちゃん……」

 ベッドの隣まで来た男を見上げつつ、来訪者の名を呼ぶ。

 唇から零れ落ちた声は、思ったよりも小さく掠れていて。

「ヴィヴィ、もしかしてアルコール口にした?」

 匠海の意外な質問に、妹は小さく首を振る。

 その様子に不自然な物を感じたのか、兄はベッドに腰を下ろしてきた。

 ぎしりと鳴くスプリングの音が、静かな部屋にやけに大きく響く。

 華奢な身体がビクと震えたが、部屋が暗いおかげで気づかれなかったようだ。

「そうか、良かった。俺が席を外している間に、伯父さん達が双子にアルコールを勧めるなんて思いもよらなくて。ごめんな……?」

(そんな、お兄ちゃんが謝る事なんて、何1つないのに――)

 そう思うのに、言葉にすれば余計な事まで口走りそうな恐怖に口を噤み、代わりに小さく首を振るしかなかった。

 そこで会話は途切れ、部屋には痛いほどの静寂が訪れた。

 カチ、カチ、カチ、カチ――

 ベッドサイドの時計の秒針だけが音を刻み続ける、息苦しささえ感じる閉ざされた空間に、

 ワンピの胸の奥、ヴィヴィの鼓動はどんどんと加速していく。

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