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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第55章          

「ライバルが豊富な、日本の環境から、離れたくないし……、勿論、コーチのマムからも……」

 申し訳なさそうに、クリスがそう弁解する。

「そうね。まあ引退してからでも、2・30代なら、いくらでも勉強は出来るものね。クリスとヴィヴィは、今自分達に出来ることを頑張ればいいわ」

 祖母がそう言って優しく返してくれたのに、双子は嬉しそうに頷いた。

 その後、双子の金メダルと、団体の銅メダルを皆に見てもらったり、五輪の話を聞かれたりで、ディナーは賑やかに進んでいった。

 親族総勢・約20名が揃ったディナーが、残りデザート後のプチフール(小菓子)となったとき、ヴィヴィはそっと席を立ち、離れたところに座っていた母ジュリアンの元へと近寄り、耳元で囁いた。

「ヴィヴィ、リンク行ってくる。いいでしょ?」

 ジュリアンは驚き、ヴィヴィを見返してくる。

「え? でも今、日本時間で翌日の朝よ? 時差ボケあるだろうし……」

「大丈夫。ヴィヴィ飛行機で爆睡したから、時差ボケなってないみたい」

 その母娘の会話が聞こえたのだろう、クリスが会話に入ってくる。

「あ~……。ヴィヴィ、食事もとらず、爆睡してたよね……。僕、心配になるくらい、ずっと寝てた……」

「フライト中ずっとって。ヴィヴィ、12時間も食事とらなかったのか?」

 匠海が心配そうにヴィヴィを見つめてきて、ヴィヴィは内心焦ったが、クリスがフォローしてくれた。

「ううん。ランチだけは、僕が付き切りで食べさせた……。目離すとすぐ、寝ちゃうから、見張りながらね……」

「ヴィヴィ、それ覚えてないかも」

「え……? お寿司、食べたんだよ……?」

 クリスが驚きの声でそう確認してくるが、

「覚えてない……。寝ながら食べてたかも」

 ヴィヴィが斜め上を見つめながらそう言うと、「ホント、何歳になっても『ベーベちゃん』だな、ヴィヴィは!!」と親族一同に突っ込まれた。

(むぅ……もう、16歳なのに……)

 ヴィヴィは面白くなくて、ジュリアンの肩に背後から両手を添えながら、少しだけ唇を尖らせた。

「まさか、クリスもリンク行くの?」とジュリアン。

「ん~。さすがに今日はやめとく。時差ボケ……。10秒で寝れる……」

 クリスは心底眠そうに、目を瞬かせている。

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