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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第55章
英国は昨今、世界レベルのスケーターを輩出していないが、国内でのフィギュア人気は高く、各地でアイスショーも開かれているという話は、ジュリアンから聞いていた。確かに自分の血の3/4を占める英国で、そういう機会を持ってみたいと思う。
「そしたら俺、見に行ってやる」
「超多忙のお医者様なのに~?」
運転席のヒューを、面白そうに覗き込むヴィヴィ。
「ああ。友達いっぱい連れて行って、俺の従弟妹は『五輪金メダリスト』って、自慢するの!」
ヒューは鼻の下を指でこすると、得意げにそう言った。
「あはは」
ヴィヴィが笑っていると、ヒューの車はリンクに着いた。
「ありがとう、ヒュー! また、2日後ね~」
「ああ。あんまり遅くなるなよ? じゃあな~」
ひらひらと手を振りながらヴィヴィが見送る中、ヒューの車は去って行った。
ヴィヴィはもう何度も足を運んでいるスケートセンターに、足を踏み入れる。前もって執事のリーヴが連絡を入れてくれたらしく、手続きはスムーズに済んだ。
ストレッチを終えたヴィヴィが、誰もいない氷の上に立ち、ふぅと小さく息を吐く。いくら機内で爆睡したとはいえ、やはり疲労感は拭えない。
「………………」
(アクセル、やっと確率上がってきたから、一日でも氷の上に乗らないのが、怖い……)
ヴィヴィはぐっと唇を噛みしめると、勢いをつけて氷を蹴った。
翌日早朝に朝食を取った双子は、すぐにリンクへと赴き、午前中みっちりとジュリアンの指導を受けた。そしてストレッチルームを借りて、お互いバレエの復習も一緒にする。
帰ると昼食を取り、『教育兄』の素晴らしいスケジューリングに基づきライブラリーで勉強し……。ぐったりしたヴィヴィとまだまだ元気なクリスは、15時に祖父母と篠宮一家でティータイムをとっていた。
(う~ん……。甘いもの欲しいなぁ……。頭酷使しすぎて、血糖値下がってるし……。でも、英国のお菓子は、見るからに太りそうだな~……)
ヴィヴィは匠海が目の前のソファーに腰を掛けているにもかかわらず、ずっとローテーブルに供された甘そうな焼き菓子に目を奪われていた。