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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第55章
(日本だったらな~。大塚薬品工業の管理栄養士さんのレシピで、料理長がお菓子用意してくれてたから、食べれたんだけど……。レシピ送ってもらって、自分で作ってみようかな……)
ヴィヴィの灰色の瞳が、だんだんと据わってくる。それを現実に引き戻したのは、匠海の声だった。
「お前達、東大受けるんだって?」
「うん……」
「クリスはそうなるかもと、思っていたけど、ヴィヴィは意外だったな」
「それって……、遠まわしに、『馬鹿』って言ってる?」
ヴィヴィは据わった目のまま匠海を見上げる。匠海は苦笑して小さく首を振った。
「言ってないよ。文系理系?」
「ヴィヴィは文科一類、クリスは文科二類……」
「へえ……。ますます意外……」
と匠海が、驚いた表情でクリスを見つめる。そんなクリスは、3人掛けのソファーで自分の隣に腰を下ろしている、ヴィヴィを見つめる。
「あ……、僕、文科一類に、変えたから……」
「……――っ えぇええ~っ!?」
何でもない事のようにクリスがそう口にした言葉に、ヴィヴィは一瞬詰まり、やがて瞳を見開いて驚く。
「調べてみたら、一類も二類も、2年までは、ほぼ同じカリキュラム、なんだって……。まあちょっと、経済系の単位を、別途取らなければ、ならないけど……。学部選ぶときに、経済学部、選べばいいだけだし……」
とつとつと、そう変更理由を述べるクリスを、ヴィヴィはまだ信じられない表情で見返す。
「え……、でも……」
一類のほうが偏差値も高く、もちろん合格率も下がる。ヴィヴィにはクリスが二類から変更するメリットが、全く以て分からなかった。
「だって、2年間、ヴィヴィと、一緒にいられるし……」
クリスはそう言うと、腕を伸ばして隣に座っているヴィヴィの頭を、自分の肩に引き寄せる。
「えぇ~……」
ヴィヴィはその腕の中で、そう情けない声を上げる。何故ならば、
(一類の定員400名が、クリスのせいで399名に減っちゃった~……)
クリスは安全圏のA判定だから、一類でも絶対に合格するだろうが、ヴィヴィはまだまだ、ボーダー圏のC判定だ。極論だが、今の状態のヴィヴィが、そう思ってしまっても仕方がないだろう。