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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第55章
屋敷に帰り着き、2台のリムジンから皆が降り立ち、玄関ホールへと吸い込まれていく。
「あれ……、お兄ちゃんは?」
てっきりもう一台のリムジンに乗っていると思っていた、匠海の姿が見えなかった。最後尾にいたヴィヴィが、近くにいた父に尋ねると、
「ああ、匠海はこの後、友人とパブに行くってさ」
と返しながら、ヴィヴィの背を抱きながら玄関へと入って行く。
「そう……」
そう呟いたヴィヴィの視線の先、クリスがじ~っとヴィヴィの事を見つめていた。
「ヴィヴィ……お勉強の、時間……」
「……――っ」
(皆さん~っ! ここに、鬼がいますよ~っ! 鬼がっ!! しかも、どSです~っ!!)
ヴィヴィは心の中で両手を口の横に添えそう叫びまくったが、けれど現実には言い返すことも出来ず、とぼとぼと双子の兄の後を付いていくのであった。
その後2時間勉強して、脳が飽和状態のヴィヴィは、早々に就寝した。
深夜2時。
ヴィヴィのベッドルームの扉が、小さな音を立てて開かれる。
固い靴底がほとんど音を立てずに部屋を横切り、ベッドに身を横たえるヴィヴィの傍までやって来る。
ベッドサイドのランプに薄暗く照らし出されたその白い頬は、常よりもさらにきめ細やかに暗闇に浮かび上がる。
ベッドのスプリングに鈍い音を立てながら腰を下ろした人物は、ヴィヴィのほうにその腕を伸ばしてくる。
頬にかかっていた金色の髪を指先で避けると、指の背でその輪郭を撫でていく。何度もそれが繰り返されるうち、やがてその指はヴィヴィの細い首を辿り始めた。
「……ん……」
小さな声と共に、ヴィヴィの体がピクリと震え、徐々に固く閉じられていた瞼が上がっていく。
灰色の瞳は霞みながらも、徐々に焦点を合わせ、そこにいる人物――匠海を映し出した。
「……お兄、ちゃん……?」
眩しそうにぱちぱちと目を瞬かせるヴィヴィが、そう掠れた声で兄の名を呼べば――、
「ああ……悪い。クリスと間違えた……」
匠海は静かにそう言って、ヴィヴィから手を放し、下していた腰を上げた。
ぎしりと音を立て立ち上がった匠海は、一度もヴィヴィのことを振り返りもせず、静かにベッドルームから出て行った。
ぱたんと音を立てて、扉が閉められる。