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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第55章          

「………………」

 ヴィヴィはベッドに横たわったまま、ようやく覚醒し始めた思考で、先ほどの匠海の様子を反芻する。

(お兄ちゃん……。首、触れてた……、多分……)

 自分の首に右手を伸ばしてそこに触れてみる。自分の小さな手では前半分しか掴めないが、匠海の大きな掌なら2/3は、ゆうに掴めるのではないだろうか。

(殺したかったのかな……ヴィヴィを……)

 復讐し終えたヴィヴィが用無しになった匠海は、ただ捨て置くだけだと思っていたが、そうじゃないのかもしれない。

 復習し終えたから、殺そうと思ったのかもしれない。

 その考えが一瞬頭をよぎったが、そんな訳があるまいとすぐに打ち消す。

 人殺しをし、その後の人生すべてを棒に振るほど、匠海は馬鹿ではない。

 何故なら、匠海には父の会社を継ぎ、青年実業家となる輝かしい未来が待っている。

 そんな未来を、馬鹿な妹たった一人のために、棒に振ったりしないであろう。

(違う……、お兄ちゃん、言ってたじゃない。『ああ……悪い。クリスと間違えた……』って)

「…………、いいな、クリスは……」

 酔っぱらって帰ってきても、その可愛い寝顔を見たいと思われるまで、兄の匠海に愛されている。

「…………ふっ」

 ヴィヴィはそう小さく苦笑すると、瞼の上に両腕を乗せた。

 こうなることは予想出来たはずだ。

 あの日、匠海を強姦した時――、この後どうなるかなんて、いくらでも予想出来たはずだ。

 妹という『分』を弁えずに、無理やり一線を越えた自分が、匠海にもう一度『妹』として愛してほしいなどと言うつもりもない。

 何故なら、『妹』ではもう足りないと分かっているから。

(でも、それでも……、我が儘なヴィヴィは、お兄ちゃんから『弟』として愛してもらえるクリスが、心底羨ましいの……)

 顔にかざされた両腕の陰から、熱い涙がぼろぼろと零れ落ちては頬を伝っていく。

「お、兄、ちゃん……っ」

 小さくその名を呼んでみるが、隣のベッドルームにいる匠海が自分の元へ来てくれる筈もなく――。

 そのまま泣き続けたヴィヴィは、泣き疲れて眠ってしまった。







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