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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第56章
「あらあら、どうして?」
祖母が不思議そうに匠海を見つめれば、
「ヴィヴィが初等部の頃、夏休みの自主研究で『向日葵の観察日記』をつけてたんだけど、3日で枯らして大号泣されてね。俺とクリスで結局植え替えて、世話までして観察日記をつけさせてたんだ。な、クリス?」
「うん……ヴィヴィってば、一日に6回も水、あげちゃうから……」
匠海とクリスがそう結託して、当人すらもおぼろげだった過去を暴いてくる。
「……むぅ……」
確かにその通りなので、ヴィヴィは何も言い返せず、茶器を手に取り紅茶を口に含んだ。鼻にマスカットフレーバーが通り抜ける。
「お前達、結構苦労してるんだね」
と祖父までヴィヴィをからかい、ヴィヴィは面白くなかった。
(いいんだもん……今日は、お菓子、食べれるし~)
ヴィヴィは目の前に置かれた焼菓子に手を伸ばす。小さな正方形のそれを口に含んで咀嚼した途端、ヴィヴィの口元が綻ぶ。
(甘い~! 美味しい! 生き返る~っ)
勉強で疲れている脳が、糖分を喜んでいるのが分かる。もう一個、と手を伸ばしたヴィヴィが、再度それを咀嚼した時、
(………………?)
ヴィヴィの視線がその焼き菓子に釘付けになる。
(あ、れ……?)
長い睫毛を纏った瞼をぱちぱちと瞬かせたヴィヴィは、頭の中で首を傾げる。この味は、どこかで食べたことがあるような――。
「ヴィヴィ」
隣からそう呼ばれ、考え込んでいたヴィヴィは、咄嗟に声のしたほうを振り返る。目の前の匠海は、自分の形のいい唇の端を指し、
「ここ、付いてる」
とヴィヴィに伝えてくる。
「えっ!? こっち? と、取れた?」
ヴィヴィは口の中のものを飲み下すと、焦って口元に手をやる。よりにもよって匠海に汚れを指摘されるなんて、恥ずかし過ぎて、冷や汗をかいてしまう。
「違う、右」
「こ、こっち?」
「ああ、もう」
焦るだけで全然言う事を聞かないヴィヴィに痺れを切らした匠海が、ヴィヴィへと手を伸ばす。
唇の端を親指の腹で拭われた途端、ヴィヴィの腰がぞくりと戦慄いた。
「……――っ」
匠海を見つめるヴィヴィの灰色の瞳が、びくりと震える。
しかし目の前の匠海は、すぐにヴィヴィから視線を外した。