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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第56章
「お嬢様?」
黙り込んだヴィヴィを、リーヴが気遣わしげに覗き込んでくる。
「何でもないの、ごめんなさい。ひとりで行けるから、戻ってくれていいわ」
にっこりと笑顔を浮かべてそう言えば、リーヴは目礼して中庭のほうへと戻って行った。
ヴィヴィは回廊の柱に身を隠すように背を預け、ぐっと唇を引き結ぶ。
「………………」
匠海なりに、大事にしてくれているのだと思う、妹として――。
昨晩、弟として匠海から愛されるクリスを、羨ましく思ったヴィヴィからしたら、喜ぶべきところなのだろう。
(大事にして欲しいの?
それとも、そうじゃないの?
分からない……。
もう、本当に分からない……。
自分の気持ちも、お兄ちゃんの気持ちも――)
泣きたいのか、そうじゃないのか。
喜びたいのか、そうじゃないのか。
それすらももう分からなくて、ヴィヴィはただそこに立ち尽くしていた。
ずっとそこにいる訳にもいかず、腕時計を確認したヴィヴィは、ピアノが置いてあるサンルームへと向かった。
近づくにつれ、ピアノの音色とチェロの音色が大きくなってくる。
たった一小節分の音でも聞き分けることが出来る、匠海と、クリスの音。
「………………」
ヴィヴィは扉の陰で何とか笑顔を作ると、そのまま扉を開いた。
「あ、ヴィヴィ……どこ、行ってたの……?」
すぐにこちらを振り向いたクリスが手を止め、ヴィヴィに尋ねてくる。
「ん? ああ、忘れ物に気づいて、部屋に戻ってた」
小さく舌を出して、すらすらとそう述べたヴィヴィに、
「ピアノ使うか?」
と、こちらも手を止めた匠海が尋ねてくる。
「ううん。ヴァイオリン弾く。ありがとう、お兄ちゃん」
微笑んで匠海を見返したヴィヴィは、部屋の隅に置いてあるケースを取り、近くのテーブルの上で開けた。
(最近、1日1時間も弾けてないし……。上達してない音、お兄ちゃんに聴かれるの、恥ずかしいんだけど……)
ヴィヴィは心の中でそう言い訳をしながら、兄達に少し背を向けてチューニングを合わせ始めた。