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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第56章        

 ドレスシャツにサマージャケットを羽織ったラフな格好なのに、匠海が着ると何か違う。

(ん~……。色気かなぁ……。大人の男の色気……? 頭だって、容姿だってずば抜けていいし、9頭身だし、御曹司だし、優しいし……。英国でも、めちゃくちゃモテるんだろうな……。来る者拒まずなところ、あるっぽいし……)

 ヴィヴィは自分の視界が少し歪んでいることに気づき、ぱちぱちと億劫そうに瞬きをする。

(そんな素敵な男の人が、子供で、リスキーで、何のメリットもない『妹』である自分を相手にするなんて、どう転んだってあるわけ、ない……)

 徐々にその瞼が下がっていき、匠海が視界から居なくなっていく。

「ヴィヴィ……?」

 そう自分の名前を呼ぶ声と共に、左から腕を掴まれた。

 はっと目を開けたヴィヴィは、左に座っていたクリスを振り向く。

「……え……?」

「食事しながら、寝てた……」

 呆れたようにそう返してくるクリスに、ヴィヴィは「あ~……」と呟く。

 視線を感じてそちらに視線をやると、皆が自分のことを見ていた。

「あ、えっと……」

 ヴィヴィが焦って口を開いたと同時に、皆が爆笑する。

「も~! ホント、ヴィヴィは小さい頃から変わらないな!」

「そうそう。いっつもお昼にはしゃぎ過ぎて、遊び疲れて、ディナーの途中に寝ちゃうの!」

「ある時は、スープ皿に顔を突っ込みかけ、ある時は、口の端から肉がはみ出ていて」

「で、最終的には匠海に抱きかかえられて、ベッドルームへ連れてかれるっていう」

 親族一同に恥ずかしい過去を洗いざらい話されて、ヴィヴィの小さな顔が羞恥に火照っていく。

「な…………っ」

 そんな昔のことを言われてもと、反撃しようとしたヴィヴィだったが、

「匠海はホント、大変だったよな~」

と従兄のヒューが匠海に振った言葉に、口を噤む。

「ダッドとマムがいつも呑んだくれてて、ヴィヴィを抱っこして階段昇らせるのが、怖かったからね」

 そう言って軽く両親を睨んで見せた匠海は、クリスへと視線を移す。

「でも、もう今は、クリスが運べるだろ?」

「余裕……」

 無表情でそう言ったクリスは、ヴィヴィのほうを振り向くと、

「おいで……」

と今すぐにお姫様抱っこをしようとする。

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