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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第56章        

「クリス、デスク使えば?」

 iPadを手にしたヴィヴィが、視線だけでベッドルームにあるライティングデスクを示す。

「ヴィヴィの隣で、寝てないか、監視してあげる……」

「め、面目ない……」

 ヴィヴィはそう言って首を竦めると、2週間後に控えている模試で、少しでも順位を上げようと講義に集中した。

 イヤホンから3倍速の講師の高い声が流れてくるのを、全神経を傾けて聞き取り、理解していく。

 1コマ終えて、ベッドから降りたヴィヴィは、リーヴにお願いしてコーヒーを届けてもらい、クリスと休憩を取る。

「マドカも頑張ってるんだから、ヴィヴィも頑張る~っ!」

 ヴィヴィはそう言って、パフスリーブの袖から伸びた細い腕を、上にグーと伸ばすと、またベッドの上で講義を受ける。さすがに2コマ目となると注意力が散漫し、ところどころ聞き漏らして、聞き直す必要が出てくる。

(聖徳太子って11人の声を聞き分けられたらしいけど、4倍速とか、聞き分けられたかな~?)

 時折そうつまらないことを考えながらも、何とかもう1コマ受講したヴィヴィは、iPadをベッドサイドに置いた。

 ベッドヘッドに持たれていた上半身が、ずるずるとずり下がっていく。隣のクリスを見ると、まだ受講中だった。

(ね~む~い~……。でも寝たら、クリスの『脇腹くすぐりの刑』がぁ~……。でも、もう、無理……)

 ヴィヴィはすやすやと寝息を立て、そのまま夢の世界へと旅立ってしまった。

 その数分後、講義を聞き終えたクリスが視線を隣にやると、爆睡しているヴィヴィに気づく。

「この後、アウトプットもするって、言ったのに……」

 クリスはそう呟きながら、『脇腹くすぐりの刑』を執行しようと、ヴィヴィに手を伸ばすが、

「まあ、2時間、仮眠取ってからでも、いいか……」

と、優しいんだか、優しくないんだか分からない判断を下し、ベッドサイドの目覚まし時計を2時間後にセットした。

 自分もヴィヴィの横に寝転がると、二人の体に上掛けを被せる。

「ヴィヴィ……寝顔も、可愛い……」

 クリスはそうぼそりと呟くと、ヴィヴィのおでこにキスを落とし、その長い髪を撫でながらひと時の休息を取った。



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