この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第56章
「クリス、デスク使えば?」
iPadを手にしたヴィヴィが、視線だけでベッドルームにあるライティングデスクを示す。
「ヴィヴィの隣で、寝てないか、監視してあげる……」
「め、面目ない……」
ヴィヴィはそう言って首を竦めると、2週間後に控えている模試で、少しでも順位を上げようと講義に集中した。
イヤホンから3倍速の講師の高い声が流れてくるのを、全神経を傾けて聞き取り、理解していく。
1コマ終えて、ベッドから降りたヴィヴィは、リーヴにお願いしてコーヒーを届けてもらい、クリスと休憩を取る。
「マドカも頑張ってるんだから、ヴィヴィも頑張る~っ!」
ヴィヴィはそう言って、パフスリーブの袖から伸びた細い腕を、上にグーと伸ばすと、またベッドの上で講義を受ける。さすがに2コマ目となると注意力が散漫し、ところどころ聞き漏らして、聞き直す必要が出てくる。
(聖徳太子って11人の声を聞き分けられたらしいけど、4倍速とか、聞き分けられたかな~?)
時折そうつまらないことを考えながらも、何とかもう1コマ受講したヴィヴィは、iPadをベッドサイドに置いた。
ベッドヘッドに持たれていた上半身が、ずるずるとずり下がっていく。隣のクリスを見ると、まだ受講中だった。
(ね~む~い~……。でも寝たら、クリスの『脇腹くすぐりの刑』がぁ~……。でも、もう、無理……)
ヴィヴィはすやすやと寝息を立て、そのまま夢の世界へと旅立ってしまった。
その数分後、講義を聞き終えたクリスが視線を隣にやると、爆睡しているヴィヴィに気づく。
「この後、アウトプットもするって、言ったのに……」
クリスはそう呟きながら、『脇腹くすぐりの刑』を執行しようと、ヴィヴィに手を伸ばすが、
「まあ、2時間、仮眠取ってからでも、いいか……」
と、優しいんだか、優しくないんだか分からない判断を下し、ベッドサイドの目覚まし時計を2時間後にセットした。
自分もヴィヴィの横に寝転がると、二人の体に上掛けを被せる。
「ヴィヴィ……寝顔も、可愛い……」
クリスはそうぼそりと呟くと、ヴィヴィのおでこにキスを落とし、その長い髪を撫でながらひと時の休息を取った。