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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第9章
すらりと伸びた太腿の上、大きな掌を握り締めた匠海は、何故か謝罪を寄越してきて。
ふるふると首を振ったヴィヴィは、咄嗟に思い付いた言い訳を口にした。
「謝ること無い……。お兄ちゃんは何もしてないよ。ヴィヴィはただ『お兄ちゃん子』を卒業しただけ――」
「……そうなのか?」
発言の真意を測るように、匠海は妹の一挙手一投足を注視しているようだった。
だから無理やり明るい笑顔を作り、大きく頷いてみせる。
「そうだよ。それにお兄ちゃんが言ったんじゃない――『いい加減兄離れしろ』って」
笑顔を張り付けて苦し紛れの言い訳をするヴィヴィの努力は実ったらしく。
匠海は「そうか……」と呟くと、やっと安堵の笑みを溢した。
「そうだよ。なんだと思ったの?」
可愛く首を傾げて見せると、匠海はやっと納得してくれたみたいだった。
「そうだな、そうだよな。ヴィヴィも来年には高校生になるんだし……兄離れくらいするよな」
そう自分を納得させるように呟いた匠海を見て、ヴィヴィは駄目押しをした。
「あのね……。ヴィヴィ、好きな人ができたの。だから――」
「なるほどね。こいつ――現金だなっ!」
好きな男子が出来たから、やっと兄離れする気になったのだと悟った匠海は、
薄暗い室内でも判るくらいに破顔し、妹の金の頭をぐしゃぐしゃに撫でまわした。
「わっ! もう、やだっ! ぐしゃぐしゃ~」
必死に自分を取り繕い、可愛い妹を演じるヴィヴィをベッドに置き、匠海は立ち上がる。
「じゃあね。明日のフライトで日本に帰るんだから、夜更かしせずにちゃんと寝ろよ?」
「は~い。オヤスミ!」
「おやすみ」
長身が扉に向かい廊下に出て行くのを、笑顔で見送っていたヴィヴィ。
パタンという音を立てて閉じられた扉を確認した途端、
弧を描いていた口角は ゆっくりゆっくり下がっていった。
「そうだよ……ヴィヴィは、お兄ちゃん離れ、しただけ――」
静かな部屋に、擦れた独白が落ちる。
だから――
(何も考えるな……何も、感じないで……そうしていたら、いつかきっと――)
ベッドに倒れこんだヴィヴィは己の肩を両腕でギュッと抱き締め、自分にそう言い聞かせ続けた。