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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第56章
ヴィヴィは背もたれに身体を預け、左の窓際に寄り掛かって寝ていた。しかしその体が車の動きに合わせ徐々に右に傾いていく。
ぽすという軽い音をたて、右隣りの人物の腕に金色の頭を預けたヴィヴィは、一瞬覚醒したが、また浅い睡眠へと落ちていく。
(この香り……好き……。なん、だっけ……、そうだ、お兄ちゃんの……)
ヴィヴィは夢と現実の狭間を行ったり来たりしながら、右隣の人物に自分の右腕を絡ませる。
(暖かい……安心、する……)
頬を擦り付ける様にくっ付くヴィヴィの口元が、ふにゃりと緩む。
しかしその幸せな時間は、長くは続かなかった。
「そこの双子! もうリンク着くから、いい加減起きなさい!」
鬼コーチモードへ覚醒したジュリアンが、厳しい声で双子を叩き起こす。
びくりと体を震わせて目を覚ましたヴィヴィは、
「は、はいっ」
と返事をした。少し離れたところからも、クリスのくぐもった返事が返ってくる。
ヴィヴィはシートに座りなおそうとして、自分の右腕が匠海の腕に絡まっていることに気づき、息を呑んだ。
(え……っ な、なんでっ!?)
咄嗟に腕を引っ込めたヴィヴィが、小さな声で匠海に謝ろうと口を開く。
「ご、ごめ――」
けれどその謝罪は、ヴィヴィの耳元で囁いた匠海の言葉によって、遮られた。
「お前は、本当に、誰でもいいんだな……」
(……え……?)
言われた意味が咄嗟には分からず、ヴィヴィは匠海を見上げたが、
「ほら、ヴィヴィ、早く!」
すでに停車していたリムジンから降り立ったジュリアンが、外から大声で呼んでくる。
「あ……、は、はいっ」
運転手が明けてくれたドアから、焦って降りたヴィヴィは、車外から匠海を見返したが、その瞳は一向にヴィヴィに向けられることはなかった。
「じゃあ、ジュリアン、オチビちゃん達、後でね~!」
そう陽気な父の声を残し、リムジンは去っていく。
その後ろ姿を見ていたヴィヴィは、クリスに手を引かれてスケートセンターへと連れて行かれる。