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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第56章
(な、に……今の……。何……?)
歩き出したヴィヴィの頭の中が、徐々に混乱してくる。
『お前は、本当に、誰でもいいんだな……』
先ほど匠海が囁いた声音は、心底、ヴィヴィを軽蔑したもの――。
その声が頭の中で鳴り響き、ヴィヴィの華奢な体がぶるりと震える。
その震えは大きくなり、やがて瘧にかかったようにがくがくと震え始めたヴィヴィに、その腕を引いていたクリスが驚いたように振り返った。
そこにいたヴィヴィは、灰色の瞳を見開いて、ぼたぼたと大粒の涙を零していた。
「ヴィヴィ……? えっ? 一体、どうしたのっ!?」
クリスがあまりに突然の事に驚いて、ヴィヴィの顔を覗き込んでくる。
「ご、ごめん……っ。じ、自分でも、よく、解らない……」
ヴィヴィが震える声でそう弁解する。
自分でも本当に何故涙が出ているのか、全く分からない。
ただもう、心の中に収まりきらない何かが、いっぱいいっぱいになって、それが涙として形を変えて零れ落ちていくようだった。
「どうしたの? ヴィヴィっ!?」
先に手続きをしにセンターへ入っていたジュリアンが、双子の異変に気づき、駆け寄ってくる。
「ごめんっ! す、すぐ、止まるからっ」
ヴィヴィは袖で涙をぐいと拭って、必死に涙を止めようとするのだが、何故か一向に止まる気配はなかった。
その華奢な体が、ジュリアンの腕の中に引き寄せられる。
「シーズンインまで後1ヶ月だからって、ちょっと、無理させすぎちゃったかしらね……」
「僕も……。ごめん、ヴィヴィ……」
ジュリアンとクリスの言葉を、ヴィヴィはただ小さく頭を振って、否定することしか出来なかった。