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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第57章          

 母の生家・エディンバラへの移動日。

 スケートセンターの前で泣き出してしまったヴィヴィは、ジュリアンに抱きかかえられるようにセンターのカフェへと連れて行かれ、5分ほどしてやっと涙が止まった。

「よ、良かった……ヴィヴィの涙腺、壊れたかと、思った……」

 何故かぐったりした様子のクリスに、ヴィヴィは「ごめん、驚かせて」と謝罪する。

「何かあったの? それとも、疲れちゃった?」

 ジュリアンがヴィヴィの両手を自分のそれで包み込み、その顔を覗き込んでくる。

「よく、分からない……。たぶん、なんか、いっぱいいっぱいに、なっちゃっただけ……。本当にごめんなさい」

 恥ずかしそうにそう謝ったヴィヴィに、ジュリアンは「まあ、しょうがないわよ」と返してくる。

「それでなくても、シーズンインまで1ヶ月だし、アクセルの焦りもあるだろうし、プレッシャーも、もちろん受験も……。英国といういつもと違う環境も、ストレスだろうしね……」

 ジュリアンはそうフォローをしてくれるが、どれも突然泣き出した事の言い訳にしてはいけないこと。

 そしてそれ以外にも、ヴィヴィには人には決して口外してはならない罪を、背負っている。

「……心配かけて、ごめんなさい。ヴィヴィ、もう大丈夫。それより、練習したい」

「今日はもう、休みなさい。今、グレコリーに電話かけて、引き返してもらうから――」

「いやっ!!」

 ヴィヴィは咄嗟に、小さな悲鳴を上げた。

 知らずしらず、奥歯がカチカチと、音を立てて震える。

 今からまた匠海と同じ車で何十分も密室で同席するなど、今のヴィヴィには耐えられるとは思えなかった。

「ヴィヴィ……?」

 ジュリアンとクリスが、ヴィヴィの悲鳴に驚いた表情で見返してくる。

「あ、えっと……、アクセルの練習、したいの……。一日でも滑らないほうが、私にとってはきょ――、ストレスなの……」

 そう半分苦し紛れの言い訳と、半分は本当に3回転アクセルの精度をこれ以上落としたくないという本音が、ヴィヴィの唇から零れ落ちる。

「……大丈夫、なの?」

「大丈夫。あはは、涙出たからかな? 逆にすっきりしちゃった!」

 そう言って笑って見せたヴィヴィに、ジュリアンは苦笑する。

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