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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第57章
「まあ、女はそうなのよね~。泣いたら意外とすっきりしちゃうという」
「そう、なの……?」
クリスが男の僕には理解不明という表情で、ジュリアンに聞き返してくる。
「男と女は違うのよ。女は痛みにも強いし、苦しいことをすぐに忘れるように、脳が出来てるの」
「ふうん……」
ジュリアンの説明に、クリスは興味深そうに聞き入って、相槌を返した
「あ……、体からいろんなものを出すって、ストレス解消にいいらしいよ? えっと、涙もそうだし、汗もでしょ? あと、意外なところで、よだれ垂らしまくるのもいいらしいよ?」
以前読んだ本に書いてあった豆知識を披露したヴィヴィに、クリスが、
「え゛……」
と嫌そうな声を上げる。
「クリス、今度やってみれば?」
とヴィヴィが笑顔で問えば、
「絶対やだっ……」
クリスは頭をぶんぶん振って拒否したのだった。
その後、予定通りレッスンを終えた双子と母は、親族一同が会するディナーに間に合うように、エディンバラの屋敷へと移動した。
「マム、クリス……。恥ずかしいから、ヴィヴィが泣いたこと、誰にも言わないで……?」
車を降りる直前にヴィヴィがそう呟くと、二人は「分かった」と約束してくれた。
ヴィヴィは手早くシャワーで汗を流すと、黒い五分袖ワンピースに袖を通し、ビジューで出来た付襟をする。
金色の髪に黒色のリボンカチューシャを付け、全身を姿見で確認したヴィヴィは、一瞬の躊躇の後、何故かカチューシャを外し、クローゼットへと戻した。
(少しでも、お兄ちゃんに可愛いって思って貰いたいだなんて……。あんなこと言われて、まだ、そんな事を考えるなんて……)
「………………」
ヴィヴィは乱れた髪を手櫛でさっと直すと、五輪のメダルのケースを手に、自分にあてがわれたベッドルームから出た。
3階の部屋から階下へと降りる途中、クリスとばったり会い、一緒にダイニングへと向かった。
広いダイニングには、昨年と同じように子供用と大人用のテーブルが、少しだけ離れて設けられていた。
ちらりと視界の端で、大人用テーブルの隅に座っている匠海を確認したヴィヴィは、なるべくそちらに背を向けるように心掛けた。