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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第57章
「あ、ありがとう。助けてくれて……。あと、ごめんなさい……。何度も同じこと、繰り返して……」
「……もういい。次から気をつけろ」
そう静かに返事を口にした匠海は、背を向けたままで、
「う、うん……」
「じゃあな」
匠海はそう言ってまた扉へ向けて歩き出す。
「お、お兄ちゃん……っ!」
また呼び止められた匠海が、小さく嘆息しながらも立ち止まってくれる。
「…………、なんだ……」
「今日の、あれ……どういう、意味……?」
そう続けたヴィヴィの声は、震えていた。
『お前は、本当に、誰でもいいんだな……』
今日の夕方、匠海から一方的に突きつけられた、その言葉。
「………………」
黙り込んだ匠海が出て行こうとするその背に向かって、ヴィヴィは必死に言葉を繋ぐ。
「よっ、よく……分からないけれどっ!
ヴィヴィ、馬鹿だから、本当に分からないけれど……。
ヴィヴィは……お兄ちゃんだけ、だよ?
お兄ちゃんしか、好きじゃないよ……?
お兄ちゃんのことしか、愛してない……よ?」
「………………」
「本当に、ヴィヴィは……お兄ちゃんだけのもの、だよ……?」
そう絞り出したヴィヴィの最後の言葉に、匠海の手がぎゅっと握りしめられる。
けれど、匠海は静かに扉へと歩いていくと、そのまま出て行ってしまった。
その後ろ姿を見つめていたヴィヴィの灰色の瞳が、落胆した気持ちを表すかのように、ゆっくりと落ちていく。
(もう、伝わらないのかな……。どれだけ言葉を、重ねても……)
知らずしらずシーツを掴んでいた自分の手が、視界に入る。
大きな手だった。
自分の足首なんか簡単に掴んでしまえる位、大きくて、熱い手。
「………………」
ヴィヴィはごろりとベッドに横たわると、階下にいるクリスが部屋に戻って来るまで、自分の上半身を抱きしめていた。