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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第57章
手渡された茶器を手に一口飲むと、匠海が目の前のローテーブルに置かれていた、サイコロ状の焼菓子が乗った皿をさりげなくヴィヴィに勧めてきた。ヴィヴィはソーサーに2つ乗せると、隣の匠海を見つめてにこりと笑う。
「ありがとう、お兄ちゃん」
「どういたしまして……」
静かにそう返してきた匠海に、ヴィヴィは少し声を落として続ける。
「レシピも、ありがとう」
ヴィヴィを見下ろしてくる灰色の瞳が、一瞬だけ揺らいだ。
「……何のことだ?」
「分からなければ、いいの」
ヴィヴィはそう言ってもう一度微笑んでみせると、菓子を口に放り込み、
「甘~い」
と無邪気に笑う。
ミルクティーを口にしていると、母ジュリアンがリモコンを手にし、近くの大型液晶テレビの電源を入れたのが目に入る。
「じゃ~ん! みんなに見せたいものがあるの、いい?」
「まあ、何かしら?」
「叔母様、何~?」
皆がジュリアンにそう尋ねてくるが、ジュリアンは、
「ふふふ。見てからのお楽しみ~!」
と液晶画面を指差した。
大きな液晶画面に、THE ICE 2019特集、という日本語が浮かび上がる。
「マム……どうしたの、それ……?」
クリスがジュリアンに尋ねる。
「牧野マネージャーが、日本で放送されたのを、昨日データで送ってきてくれたの」
テレビから日本の中京テレビの放送が流れ出す。
『今週のチュッキョフィギュアは、先日名古屋で行われました THE ICE2019の特集 をお送りしておりますが、第3弾の本日は、大変お待たせいたしました! オリンピック金メダリスト、並びに、世界選手権金メダリスト――篠宮兄妹の、夢の競演です!!』
「ジュリアン~、日本語分からないわ」
叔母達のその言葉に、ジュリアンは、
「まあ、見てればわかるって」
と大きな瞳でウインクしてみせる。
「あっ! ヴィヴィだ!」
暗い画面の中、スポットライトに浮かび上がる、純白の衣装を身に纏ったヴィヴィに、サンルームに歓声が上がる。
「可愛い~。日本のショー、なんだね? あはは、演技してる」
チュチュの裾を持ち上げ、一人淑女の礼をしたヴィヴィを見て、従弟のジョンが面白がる。