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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第57章
「あ、クリスだっ! あはは、格好つけてる」
「すごい、黄色い歓声! なんか、リアル王子様っ!!」
女子達がきゃあきゃあ騒いで、クリスを見て笑っている。
「恥ずかしがり屋さんのヴィヴィは超絶可愛いし、得意げにエスコートするクリスも、食べちゃいたいくらい可愛いな!」
向かいに座っていた父グレコリーがそう言って、双子を交互に見詰めてくる。
「食べちゃいたい、って……」
クリスがそうぶつぶつ言いながら、少し嫌そうな顔をする。
(お兄ちゃんは、ヴィヴィの演技見て、少しは可愛いと思ってくれるのかな……?)
ヴィヴィはふとそう思い、触れるほど傍にいる匠海をそっと見上げたが――。
その匠海はソファーの背もたれに背を預けてしまい、ヴィヴィからはその表情が窺い知れなかった。ただ、ソファーの布地の上を滑る衣擦れの音で、匠海の右腕がヴィヴィが凭れていない背凭れに伸ばされたのだけは分かる。
「あ、チューした」
サラの弟のジムが、そう言って画面に映ったアップの双子を指さす。
「ヴィヴィ慌ててる、可愛い~」
従姉妹達がそう言って笑い転げるのを見て、ヴィヴィは首を竦める。
「も~、クリスが面白がって、毎回振付でもないのに、ヴィヴィにキスしてね。まあ、お客さんは喜んでたけど」とジュリアン。
「そうだよ~。日本じゃ、親族でも恋人でも、人前でキスしないのに」
とヴィヴィが英国と日本の習慣の違いを、皆に説明する。
「だって……、ヴィヴィ、可愛かったから、つい……」
クリスが隣のヴィヴィを見下ろしながら、悪びれもせず言い訳する。
「『つい』で見境なしにキスしたら、日本では犯罪だからね?」
ヴィヴィは胡乱な瞳でクリスを見返す。
「お、今度は『不思議の国のアリス』!」
双子が不毛な会話を繰り広げていると、画面にはヴィヴィのエキシビションナンバーが流れ始めていた。
不思議の国のアリス宜しく、水色のワンピースに水色のカチューシャ、白いエプロンドレスを纏ったヴィヴィが、黒と白の縞々タイツに包まれた足を可愛らしく蹴り上げ、白ウサギの縫いぐるみを手にチャーミングに踊っている。