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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第57章          

「クリスは?」

「SPは、ベートーヴェンの月光、FPは、バレエ『牧神の午後』……」

「へえ、月光は分かるけど、『牧神の午後』ってどんなのだっけ?」

「秘密……。試合、見て……」

 そういった親族達のやり取りが、酷く遠くに感じられる。

「………………っ」

(お兄ちゃん……もっと……もっと、ヴィヴィに、触れて……?)

 ヴィヴィの長い睫毛が、ふるふると震える。

 こんなのじゃ、足りない。

 けれど、たかがこれだけの触れ合いだけでも、

 自分の心は、躰は、匠海に囚われ、蕩けさせられる。

(お兄ちゃん……もっと……)

 ヴィヴィの潤った唇がうっすらと開き、そこから熱い吐息が漏れる。

 しかし、そのヴィヴィを現実に引き戻したのは、他でもない双子の兄・クリスだった。

「ヴィヴィ……お勉強の、時間……」

 まるでたゆたっていた白昼夢から強引に引きずり上げられたかの如く、ぱっと頭が現実に引き戻され、ヴィヴィはぼうとした表情で、隣に立っていたクリスを見上げる。

「……あ……、う、うん……」

「行こう……?」

 不思議そうに見下ろしてくるクリスに、ヴィヴィは少し焦って口を開く。

「あ……、えっと、クリス……、先、行ってて? ヴィヴィ、バスルーム(化粧室)、寄ってから行く……」

「了解……」

 クリスはそう言うと、ヴィヴィの金色の頭をポンと撫で、サンルームを出て行った。

 その後ろ姿が見えなくなると、ヴィヴィは手にしたままの茶器に視線を落とすだけで、立ち上がろうとしない。

「行かないのか……?」

 1分ほど経った頃、一向に席を立とうとしないヴィヴィに、その隣に腰を下ろしている匠海が小さな声で聞いてくる。

「……行く、もん」 

 ヴィヴィがムスッとした声で小さく返す。

 結局少ししか口にできなかった、紅茶と焼菓子の乗ったソーサーを、ローテーブルに置く。

 ヴィヴィは匠海をちらりと振り返ると、名残惜しそうにゆっくりと席を立った。それと時を同じくして、添えられていた匠海の掌もすっと引かれる。

 親族に「また、ディナーで」と挨拶してサンルームから出たヴィヴィは、そことライブラリーの間にあるバスルームへ、クリスに言った通り入って行く

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