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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第58章
「そ?」
ヴィヴィは先程の匠海の様子を思い浮かべ、ちょっとイラッとしてそう短く相槌を返す。
「うん! カーディガン脱いで~、白のストールとか巻いたら、完璧っ!」
そう言って親指を立てて返してくれたサラに、ヴィヴィは瞳を瞬かせる。
「そう…、だよ、ね……?」
「うん。……ヴィヴィ、どうかした?」
急にぼんやりした表情になったヴィヴィに、サラが不思議そうに尋ねてくる。
「ううん……。なんでもない……」
ヴィヴィは目の前に置かれた器用に折られたナプキンを取り上げながら、ちらりと視線だけで匠海の姿を探す。
大人用のテーブルの、ヴィヴィからは対角線上になる先に腰を下ろしていた匠海は、こちらにちらりとも視線を寄越すこともなく、従兄弟達と談笑している。
(……分かんない……。お兄ちゃんの趣味には、合わなかったとか……?)
ヴィヴィは始まったコース料理を口に運びながら、頭の中で首を捻る。
結局匠海の行動の意図が分からないまま、前菜、魚料理、肉料理と平らげたところで、ヴィヴィは熱くなってきた。
ダイニングの隅では、夏だというのに(外気温10度の為)暖炉が煌々と焚かれている。
ヴィヴィは手にしていたカトラリーを皿の上に置くと、白いカーディガンを脱ごうと片腕からそれを引き抜いた。
後ろに控えていた男の使用人がヴィヴィに気づき、もう片方を腕から抜くのを手伝ってくれる。
「ありがとう」
「お預かりしておきましょうか?」
笑顔で礼を言ったヴィヴィに、使用人が尋ねてくる。
その時、刺さるほど強い視線を感じた。
ヴィヴィがはっとしてそちらを振り返ると、視線の先、匠海が冷酷とも思えるほどきつい瞳でヴィヴィを見据えていた。
(お兄ちゃん……?)
匠海の態度の意味が分からないヴィヴィは、困惑して見つめ返すことしかできない。
「ヴィクトリア様?」
遠慮がちにそう尋ねてくれた男性使用人の声に、視線を戻したヴィヴィは、
「あ、ごめんなさい……。寒くなるかもしれないから、自分で持っておくわ」
と断った。
彼はヴィヴィの傍から離れて元いた場所へと戻っていく。
「………………」
ヴィヴィは脱いでしまったカーディガンを手に、途方に暮れる。