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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第58章          

(何が気に入らないのか、言ってくれないと、ヴィヴィ……、もう、分かんないよ……)

「はぁ……」

 無意識に唇から零れてしまった溜息に、隣のサラが振り向く。

「ん? 暑い?」

「ちょっとね……」

 ヴィヴィが眉をハの字にしてぼそりと呟く。

「肩に羽織っておけば? 後、デザートだけだし」

「そだね……」

 サラの忠告通り、肩にそれを羽織ったヴィヴィは、恐る恐る匠海のほうに視線をやる。

 一瞬視線がかち合った匠海は、もう興味がなさそうにヴィヴィから視線を外し、目の前の叔父と話し始めた。

「………………」

(要するに……その貧弱なデコルテラインを、他者の目に晒すなよ……と?

 お前の貧相な肩のラインなんて、誰も見たくないんだよ……てかっ?)

 ヴィヴィは膝の上に置いたナプキンを、両手でくしゃりと握りしめる。

(ああ、そうですかっ! もう分かったってば! 

 どうせっ! どうせヴィヴィは『お子ちゃま』ですよ――っ!!)

 もう、むしゃくしゃしてしょうがなかった。

 胸が小さいのは生まれつきなのだから、しょうがないではないか。

 顔が童顔なのだって、成長したら変わるかも知れないではないか。

 躰が華奢を通り越して貧相に見えるかもしれないけれど、アスリートとして理想的な筋肉は付いている。

 ジャンプを今迄通り飛ぶには、この体格が必須なのだから、しょうがないではないか。

「皆様、紅茶とコーヒー、どちらになさいますか?」

 食後のデザートに向けて、使用人達が皆に確認しにくる。

「ヴィヴィは、ミルクで! 成分無調整のミルクでっ!!」

「は、はあ……」

 そう憤慨した様子で牛乳を要求してくるヴィヴィに、使用人が不思議そうに目の前にミルクを置いてくれる。

 それを手にしてぐびぐび全て飲みきったヴィヴィは、どんとテーブルの上にコップを置いた。

「もう、一杯!」

 低い声でそう唸るように言うヴィヴィに、

「ど、どしたの、ヴィヴィ?」

「まさか、ミルクで酔っぱらってるの?」

と周りの従姉妹たちが声をかけてくる。

「ヴィヴィ、目、座ってる……」

 目の前に座っていたクリスが、そう静かに日本語で指摘してくるが、ヴィヴィは聞く耳を持たなかった。

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