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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第58章          

「……――っ お兄ちゃんなんか、キライ……っ」

 そう弱々しい声で言って匠海と視線を合わそうとしないヴィヴィに、匠海は一つ大きな溜め息を漏らす。

「ああ、嫌いで結構。もう、風呂入って寝ろ」

 匠海はそう言い捨てると、呆れた様に部屋から出て行ってしまった。

 一人取り残されたヴィヴィのいるベッドルームには、しんという音が聞こえそうなほどの静寂が下りていた。

 しかししばらくすると、すすり泣く声が漏れ始め、それはやがて大きな嗚咽へと変わっていく。




      『別に触りたくて、触ってるんじゃない』




 匠海の先ほどの言葉が何度も頭の中で鳴り響き、ヴィヴィに追い打ちをかけていく。

 ちゃんと分かっていた。

 匠海が妹の自分を抱いたのは、『復讐』の為だけだと。

 分かっているけれど、自分だって一応――女、だ。

 もしかして、躰を繋げることで、少しは好きになってくれるかも。

 唯一褒められた自分の膣の具合に、匠海が溺れてくれはしないかと。

 そう淡い期待を心のどこかで、ずっと持ち続けていた。

 けれど、そんなこと、絶対に有り得なかったのだ。

(だって、お兄ちゃんはヴィヴィのこと、触れたくもなかったんだもの……)

 ヴィヴィの薄い唇が、苦しい胸の内を堪えるようにぎゅうと引き結ばれる。

 しかし、それも一瞬で、

「ふぇえ~えん……っ」

 ヴィヴィは子供っぽい泣き声を上げて、ベッドに突っ伏していつまでも泣いていたのであった。





 いつの間にやら寝てしまっていたらしいヴィヴィは、ベッドの中でむくりと体を起こした。

 服装は紺色のベアワンピのままなのに、何故かその上に羽毛布団が掛けてある。

(あ……クリス……、勉強しに、呼びに来たんだろうな……)

 ヴィヴィはそう思いながらゆっくりとベッドから降りると、ライティングデスクの傍まで歩いていく。

 案の定そこには、クリスの書いたメモが残されていた。


 『 DEAR ヴィヴィ

     お腹壊してない?

     寝てたから、今日はもう、勉強はやめにします。

     ゆっくりしてね。

                   FROM クリス
 
   P.S. 兄さんと、まだ喧嘩中なの?       』

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