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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第58章          

 しかし、我慢できたのはそれから2分間だけで、

(げ、限界……)

 ぞくぞくしてきたヴィヴィは、匠海がまだ泳いでいることを確認し、ザバッと音を立てるとプールから這い出た。

 ペタペタと濡れた足音を立てて庭側にあるジャグジーに近づき、手で温かいか触れてみると、ちゃんと温水だった。

 ヴィヴィはほっとしてジャグジーに浸かると、恐るおそる、まだ泳いでいる匠海を振り返った。

 ほとんど水飛沫を上げないその泳ぎ姿は、とても美しい。

「………………」

(なんでも出来ちゃうんだよね……お兄ちゃんって……。かっこ悪いところなんて、見たこともない……)

 ジャグジーが作る大きな泡越しにぼんやりと匠海の泳ぎを見ていると、プールの縁に着いた匠海が、ざばっと水から上がった。

 逞しく鍛え上げられた引き締まった体が露わになり、ヴィヴィは恥ずかしくて咄嗟に視線を逸らす。

 ぺたぺたという足音が、どんどんこちらに近づいてくる。

 それに伴い、ヴィヴィの鼓動もどくどくと早鐘を打っていく。

(ジャグジー、浸かりたいんだよね……。ヴィヴィ、出たほうがいいのかな……)

 ヴィヴィはお湯の中で伸ばしていた長い足を引き寄せ、胸の前で揃える。

(あ、でも今出たら、お兄ちゃんに水着姿晒すことになるし……。ど、どうしよう……)

 そう混乱しているヴィヴィの心中など我関せず、匠海はジャグジーへと入って来た。

(は、入られちゃった……。あんなに素敵なお兄ちゃんの身体が、すぐ傍にあるなんて……ヴィヴィ、心臓壊れそう……っ)

 一人百面相をしているヴィヴィには目もくれず、匠海はその長い脚をジャグジーの中で伸ばして湯に身を委ねている。

(何か言わないと……気まずい……。えっと、その~~……)

 ヴィヴィはつい数時間前に、

『お兄ちゃんなんか、キライ……』

と言ってしまったことなど記憶の彼方に葬り去り、性懲りもなく匠海の存在にドキドキしていた。

 ヴィヴィは胸の前に揃えた両膝を腕で抱え込み、恐る恐る口を開く。

「……こ、この前は、……助けてくれて、ありがとう……」

 ゴポゴポとジャグジーの泡の音が鳴る中、ヴィヴィの掠れた声に匠海がふっと顔を上げる。

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