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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第58章          

(年末年始って……4ヶ月も先……?

 しかも、それさえも帰れないかもって……。
 
 もしかしたら、留学してる1年間、ずっと会えないってこと……?)

「そ……そ、う……」

 ヴィヴィは何とかそう相槌を口にしたが、もうあまりのショックで頭の中がぐちゃぐちゃになり、歯を食いしばる。

(ヤバい……。泣きそう……)

 涙を見られるのと水着姿を見られるのでは、涙を見られるほうが嫌だった。

 ヴィヴィは静かな水音を立てると、ジャグジーから出て行く。

 温まりすぎた体から、ぽたぽたと冷えた雫が落ちていく肌の感触が、更にヴィヴィの涙腺を刺激するようだった

 そして何故か、ヴィヴィはその全身に、痛いほど匠海の視線を感じていた。

 ヴィヴィは火照った体には冷たすぎるプールに歯を食いしばり、拳を握りしめながら入っていく。

 我慢できなくなった涙が、ぼろりとその大きな瞳から零れ落ち、それに引きずり込まれるようにヴィヴィはプールに顔を浸けて泳ぎだした。

 ゴーグルがないので、塩素が目に染みる。

 ぼんやりと霞む視界でゆっくりとクロールをする。

(一年も会えない間……、お兄ちゃんは女性と付き合ったり、するんだよね……。

 ていうか、今も付き合ってる女性、いるのかも……。

 だから、ヴィヴィの躰だけでも、求めてこないのかも……)

「………………」

(違うか……。あの抱かれた3日間は、

 お兄ちゃんにとっては、『性欲処理』でも何でもなければ、

 ヴィヴィに『復讐』するためだけの行為だったんだから……。

 触れたいと思われもしないヴィヴィは、

 『性欲処理』の相手にもなれないんだもんね……)

「……――っ」

 自分のその考えがあまりにも惨め過ぎて、泣けてくる。

 さすがに泣きながら泳げるほどヴィヴィも器用じゃなく、息苦しくなって残り1/3位のところで足が付いてしまった。

 その耳に、匠海がジャグジーから上がる音が聞こえた。

 足音の後に聞こえてきたのは水の中に入る音。

 ヴィヴィはとぷんと静かな音を立てて、水の中に沈む。

 そしてしばらくすると潜水し、プールの縁まで辿り着いた。

 水面から静かに頭を出したヴィヴィは、縁に両手を付いて体を引き上げる。

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