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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第59章
その数十秒後、
「アレックス~! 数学の宿題、終わった?」
「世界史の宿題の量、半端なかったよな!?」
「バハマ行って、焼きすぎて、鼻の頭の皮が~……」
皆が口々に喋り始める。そしてその誰もが、ヴィヴィから視線を外していた。
「……な――っ!?」
絶句するヴィヴィに、隣のクリスが、
「はいはい……どうどう……」
と宥めながら、頭を撫でてくる。無言で頭を撫でられ続けるヴィヴィの頬が、徐々に膨らんでいく。
「お~い、そこの『お子ちゃま』! 化学の宿題の答え、写させろよ?」
「ちょっと、そこの『べーべちゃん』。入り口に突っ立ってたら邪魔だから、どいたどいた」
皆にそうからかわれ、ヴィヴィが灰色の瞳を見開く。
「―――っ!?」
(人の話を聞けや、ごらぁ~っ!!)
ヴィヴィは両拳を握りしめて、心の中でそう口汚く怒鳴ると、むすっとしながら自分の席へと移動したのだった。
「う~ん……。4~5/6回の間を、行ったり来たりって感じね」
ジュリアンはそう言いながら、柿田トレーナーがつけてくれている、オフシーズンのヴィヴィの3回転アクセルの成功率を、PCで見つめている。
「10月頭のジャパンオープンは一応、SPで1回、FPで2回飛ぶ予定で調整を進め、1週間前に再度検討って感じでしょうか?」
サブコーチが腕組みしながらそう続ける。
「それがベストじゃないでしょうか。まあ、言ってもジャパンオープンはお祭りみたいな試合ですからね。アクセルの失敗を恐れて回避するくらいなら、データ取りと度胸試しも兼ねて、全て飛んだほうがいいと思いますね」
柿田トレーナーの指摘に、コーチ陣もヴィヴィ本人も深く頷く。
ストレッチを終えてリンクへと移ったヴィヴィは、サブコーチにスケーティングスキルの指導を受け、ジャンプ等の技の練習に移る。
アクセルの調子はというと、今日は5/6回だった。
最後の一本で軸が曲がり転倒したヴィヴィは、氷にしたたか尻を打ち付けて、その場で体を捩って痛みに耐える。
(あ~……、☆新生ヴィヴィ☆でも、アクセル成功率は変わらない……)
リンクの隅でこけたヴィヴィは、寝転んだまま先ほどのアクセルの入りと軌道を頭の中で反芻する。