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禁断の果実 ―Forbidden fruits― 第1部
第59章
曲に沿って両腕を胸の位置でホールドすると、にっこりと無邪気に笑ったヴィヴィは、左右に優雅に開き右腕は胸の前に引き寄せ、左腕は体の後ろに引く。同じく左足を軸に右足を頭と同じ高さまで引き上げながら助走を続けると、左足を軸にトリプルルッツを飛ぶ。
そしてステップからのトリプルループを降りると、フライイングチェンジフットコンビネーションスピン。
その後から後半に入り、曲はオーロラ姫のヴァリアシオンへと移行する。
曲が止められ、ヴィヴィはFPの前半の通しを見守ってくれていたコーチ陣のもとへと戻る。
「どうでした?」
とヴィヴィが問えば、
「ああ、まあジャンプに関しては、コンビネーションのアクセルの着氷が、ツーフットだったけど……。それよりも、振り付けに伸びやかさが出て、断然に良くなった!」
サブコーチはそう言って、満足そうに笑う。
「ヴィヴィ……。貴女、今、何を思いながら、滑ってた?」
ジュリアンがマスカラを塗った目をぱちくりとさせながら、ヴィヴィを見つめてくる。ヴィヴィはその様子に少し首を傾げながらも、
「えっと……。前半は薔薇のアダージョ、だから、
『わ~い♡ 4人の王子にモテモテよ、私。ウフウフッ!
薔薇をプレゼントされちゃった~!
未来の私の旦那様は、だ・れ・に・しようかしら? キャハハハッ!』
――です」
ヴィヴィは、頬の横で指を組んだ両手を添えて瞳をキラキラさせると、夢見る少女の様に先ほどの気持ちを再現して見せる。歌うように発せられる声も、甲高い。
「そ、そう……。いい感じよ」
何故か引き攣った笑顔でそう返してきたジュリアンに、ヴィヴィは組んでいた指を解いて、真顔に戻る。
「そうですか? 良かった。じゃ、この解釈で行きます」
先ほどの気持ちをもう一度思い出そうと、ヴィヴィが胸の前で両腕を組んで瞼を瞑る。
「か、変わった解釈ですね……?」
と傍にいた柿田トレーナーが小さく呟くと、ジュリアンが小声で、
「ヴィヴィは結構思い込み激しくて、それが強みでもあるから、『役になりきる』ほうがいい結果を生むのよ」
とフォローする。